セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 消W16-4:

Gli1による胃型粘液形質マーカー遺伝子MUC5ACの発現制御の解明

演者 山道 信毅(東京大・消化器内科)
共同演者 中山 千恵美(東京大・消化器内科), 小池 和彦(東京大・消化器内科)
抄録 【目的】Hedgehogシグナル伝達経路は発生に必須の機能を持つ情報伝達系であり,諸臓器の器官形成に不可欠であるとともに,体性幹細胞の制御や成熟組織の維持・再生にも働いている.腸上皮化生を母地として主に生じる胃癌は,消化管分化の制御異常が発癌に強く関連するとされ,Hedgehogシグナルの異常の関与が示唆されているが,十分に解明されていない.そこで,このシグナル経路のエフェクター分子Gliを胃癌細胞株に発現させ,消化管分化という視点から解析を行なった.【方法・結果】Gli1・Gli2を強制発現後に様々な消化管マーカー発現の変化を解析したところ,胃型粘液形質マーカーMUC5ACの発現誘導が認められた.逆にGli1・Gli2をknockdownするとMUC5ACの発現低下を認められ,また,遺伝子上流の諸欠失変異を用いたLuciferase asssayを行うと,翻訳開始点上流125~110bpがMUC5AC発現に必須であった.多くの動物で高度に保存された15bpの領域にはGli結合配列GBSが含まれ,クロマチン免疫沈降実験によってGliがこの領域に動員されることが示された.各組織由来ヒト正常RNAを用いた発現比較では,Gli1・Gli2は全組織に様々に発現しており,明らかな組織特異性を示すMUC5ACとの発現相関は認めず,GliがMUC5AC発現の十分因子ではないことが分かった.Luciferase asssayで更に上流を調べると,2000~4000bp上流により強い転写活性が認め,同領域にはCpGアイランドが存在していた.DNAメチル化阻害剤・ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬によって発現欠失株のMUC5AC発現が回復することから,epigeneticな制御も関連することが明らかとなった.【結論】MUC5AC遺伝子発現には,翻訳開始点上流125~100bpへのGli結合による転写開始が必須である.これに加えて,上流2000~4000bpに発現を制御する領域があり,メチル化やヒストン修飾などのepigeneticな発現調節が,MUC5ACの組織特異的発現の分子基盤を成していることが示唆された.
索引用語 Gli1, MUC5AC