セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 消W16-6:

上皮間葉移行(EMT)による食道扁平上皮癌がん幹細胞維持・増幅機構

演者 夏井坂 光輝(北海道大・消化器内科)
共同演者 中川 裕(Division of Gastroenterology, University of Pennsylvania), 坂本 直哉(北海道大・消化器内科)
抄録 癌幹細胞(CSC)の存在が多くの固形癌においても報告され,癌幹細胞が再発,転移,治療抵抗性に深く関与していることが明らかとなってきた.また,正常組織の幹細胞とは異なり,癌においては非癌幹細胞(non-CSC)がCSCに脱分化することが近年報告されている(Gupta PB et al. 2011 Cell).上皮間葉移行(EMT)がこのプロセスに関与している可能性が示唆されている(Scheel C et al. 2011 Cell).我々は食道扁平上皮癌においてEMTが腫瘍の進展,悪性度に深く関与していることを報告してきており,食道扁平上皮癌においてもEMTによるnon-CSCからCSCへの脱分化が生じている可能性が考えられた.今回,食道扁平上皮癌CSCの維持・増幅におけるEMTの役割をin vitroおよびin vivoの実験系により検証した.食道扁平上皮癌におけるnon-CSCであるCD44の発現の低い細胞(CD44L細胞)を分離し,TGF-βで処理するとEMTが誘導され,CSCであるCD44の発現の高い細胞(CD44H細胞)が著明に増幅された.このEMTにおいてはTGF-βおよびNotch両シグナルが必須であり,TGF-β/Notchシグナルを活性化するとCD44H細胞は増幅され,逆にそれらの阻害剤により有意に抑制された.ヌードマウスを用いた動物実験においてもTGF-β/Notchシグナルを活性化することで有意な腫瘍内のCD44H細胞の増加と腫瘍増殖の促進,逆に両シグナルの阻害によりCD44H細胞の減少と腫瘍増殖の抑制が認められた.重要なことに,分離されたCD44L細胞はNotch1を活性化することでCD44H細胞への脱分化と高率な腫瘍形成がin vivoにおいても認められた.これらの結果は食道扁平上皮癌においてTGF-β/Notchシグナルを介したEMTがnon-CSCからCSCへの脱分化を誘導し,CSCの維持・増幅に重要であることを示唆している.癌におけるnon-CSCからCSCへの脱分化のメカニズムは新たな治療法の標的となり得ると考えられ,今後の研究の発展が期待される.
索引用語 癌幹細胞, 食道扁平上皮癌