セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 消W16-8:

肝発癌および治療抵抗性獲得における幹細胞の役割

演者 櫻井 俊治(近畿大・消化器内科)
共同演者 樫田 博史(近畿大・消化器内科), 工藤 正俊(近畿大・消化器内科)
抄録 【目的】多くの肝癌は慢性炎症による組織の線維化を背景に発癌し,この過程において活性酸素種(ROS)の蓄積およびその下流分子JNKが重要な役割を果たしている.分子標的薬ソラフェニブは海外では進行肝細胞癌の標準治療とされ,治療効果を予測し薬剤耐性機序を解明することは,更に有効性の高い薬剤の開発につながる.ソラフェニブ治療効果と幹細胞の関連を検討し,癌細胞株および肝発癌マウスモデルを用いて癌幹細胞の増幅の分子機序を考察する.【方法】2009年5月から2012年11月の間に,ソラフェニブ治療前に肝生検にて採取した肝組織(n=45)を用いて,治療抵抗性に関わる遺伝子を検討した.Thioacetamide (2.5%)をマウスに10か月間経口投与することで,慢性肝炎,肝線維化を経て肝細胞癌ができることを見出した.このマウスモデルを用いて,癌幹細胞の増幅に関わる分子機序を検討した.【成績】肝癌患者におけるソラフェニブ治療抵抗性および予後と癌幹細胞マーカーであるCD133の発現量との間に相関があり,治療抵抗性の獲得における癌幹細胞の重要な関与が示唆された.JNK活性および肝癌遺伝子ガンキリンの発現がソラフェニブ治療抵抗例で高い傾向を示し,ガンキリンとvascular endothelial growth factor (VEGF)の発現量との間に有意な相関を認めた.癌細胞株を用いて,ガンキリンがVEGF, stemness factor Nanogの発現を促進し,VEGFはNanogの発現を直接制御することがわかった.マウスの慢性炎症のある肝臓において,ROS依存性にc-Jun/JNK 経路の活性化およびstemness factorであるSOX2の発現が亢進し,またROS非依存性にガンキリンの発現が亢進する.【結論】癌幹細胞の増殖にはROS依存性と非依存性の経路があり,前者にはc-Jun/JNK, SOX2が,後者にはガンキリンによるVEGF, Nanog発現の制御が関与している.ROS,ガンキリンを標的として,新しい治療効果予測のバイオマーカーや治療薬の開発が期待できる.
索引用語 炎症性発癌, 幹細胞