セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 肝W16-9:

肝幹/前駆細胞を起源とする肝発癌モデルを用いたゲノム異常の網羅的解析

演者 金 秀基(京都大・消化器内科)
共同演者 丸澤 宏之(京都大・消化器内科), 千葉 勉(京都大・消化器内科)
抄録 【目的】肝組織幹/前駆細胞を起源とする肝発癌モデルマウスを用いて,肝癌発生過程で起こるゲノム異常の全体像を明らかにする.
【方法・結果】Activation-induced cytidine daminase(AID)は,炎症刺激により発現し,ヒトゲノムに多段階に変異や染色体異常を誘導する遺伝子編集酵素である.このAIDを恒常的に発現するAIDトランスジェニック(Tg) マウスの胎児肝より肝幹/前駆細胞を分離・採取しレシピエントマウスに移植したところ,11匹中7匹(64%)に肝癌の発生を認めた.他方,wild-typeマウスの胎児肝由来の肝幹/前駆細胞を移植したレシピエントマウス群には全く肝腫瘍を認めなかった.続いて,肝癌細胞と,その起源となった肝幹/肝前駆細胞の全エクソン塩基配列を次世代シーケンサーで網羅的解析し,両者の配列の比較を行った.この結果,肝幹/前駆細胞から肝癌に至るまでに,数十~数百ヶ所のゲノム異常が起こっていることが明らかになった.また,KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)を用いた機能解析にて,肝癌発生過程で生じた変異遺伝子の多くは,MAPK シグナル伝達や,代謝経路など生体内の重要なpathwayに関わることが示唆された.さらに,これらの変異遺伝子の約80%がヒト肝癌で報告されている変異遺伝子と重複していることが確認された.
【結論】肝組織幹/前駆細胞に多段階にゲノム異常が生成・蓄積することが,肝癌の発生につながるものと推定された.
索引用語 肝前駆細胞, ゲノム異常