セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 外W16-10:

可視化癌幹細胞に基づいた分子生物学的特徴の解明と治療開発への展開

演者 田中 真二(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
共同演者 伊藤 浩光(東京医歯大・肝胆膵・総合外科), 有井 滋樹(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
抄録 【目的】癌難治性の原因の1つは,その多様性(heterogeneity)である.組織の多様性は自己複製能と多分化能(非対称性分裂) を持つ幹細胞が担っているが,近年,癌にも幹細胞性を示す細胞群が内在し,癌の多様性の根源となることが報告され,標的治療の開発が期待されている.しかし,様々なマーカーを用いて癌幹細胞を純化しても,非対称性分裂によって非癌幹細胞が増殖するため,癌幹細胞そのものに対する治療効果を正確に把握することは困難である.一般に未分化幹細胞は蛋白代謝が低下しているが,我々はその特性を蛍光可視化することで治療開発へ応用している (Gastroenterology 2012; Hepatology , in press).【方法】蛋白代謝の低下によって蛍光蛋白を発現するベクターを構築し,ヒト膵癌・肝癌細胞株に導入し癌幹細胞を分離した.癌幹細胞のDNAメチル化アレイ・マイクロアレイ複合解析によって遺伝子機能解析を行なった.さらに細胞イメージアナライザーを用いた蛍光スクリーニング法を開発して,癌幹細胞を標的とした阻害剤を同定し,抗癌剤併用効果を前臨床試験によって検証した.【成績】幹細胞性可視化によって,癌幹細胞は全体の数‰に存在し,非対称性分裂やスフェロイド形成などの細胞動態が観察された.同定した癌幹細胞は高い造腫瘍性のみならず,浸潤能・転移能を示した.また,メチル化による発現抑制遺伝子として特定の転写因子群,脱メチル化による発現亢進遺伝子群として細胞接着因子群が同定された.さらに癌幹細胞の持つ抗癌剤耐性過程を可視化し,蛍光スクリーニング法によって癌幹細胞のみを選択的に阻害する薬剤を同定し,抗癌剤併用療法が著効することを前臨床試験によって明らかにした(特許出願中).【結論】癌細胞には幹細胞特性を呈するサブグループが内在することが明確となり,癌幹細胞の分子生物学的特徴の解明と,新たな標的治療開発の可能性が示された.
索引用語 癌幹細胞, 分子標的