抄録 |
【背景】大腸ESDは技術的難易度が高く,穿孔など偶発症の発症率も食道,胃におけるESDと比較するとやや高い.しかし,直腸に限ってみると,偶発症のリスクは低いと考えられており,ESDの有用性は高いと考えられる.【目的】直腸におけるESDの意義と妥当性を明らかにする.【方法】2006年4月-2013年2月の,当院および関連施設の2施設において,ESDにて初回治療を施行した360病変(341症例,肛門管に進展する16病変を含む)を対象とし,1)結腸261病変と直腸99病変に分け,患者背景,平均腫瘍径,肉眼形態,病理組織学的診断について,2)結腸261病変,Ra36病変およびRb63病変におけるESDの治療成績について,それぞれ比較検討を行った.【成績】1)患者背景に差は認められず,平均腫瘍径は結腸で36±18mm,直腸で47±26mmであり,直腸で有意に大きかった.肉眼形態(結腸/直腸)は,LST-G43/75%,LST-NG48/17%,その他9.2/8.1%で,直腸におけるLST-Gの割合が有意に高かった.病理組織学的診断 (結腸/直腸)は,腺腫48/33%,M癌37/56%,SM1癌8.8/5.1%,SM2以深癌6.5%/7.1%で,SM2以深癌に有意差はなかった.2)ESDの成績(結腸/Ra/Rb)は平均腫瘍径:36±18/49±27/46±25mm,施行時間(中央値):55/80/60分,一括切除率:99/97/98%,完全一括切除率:94/94/95%,治癒切除率:90/83/89%,偶発症発症率:4.6/2.8/1.6%:穿孔率:3.5/2.8/0%,後出血率:1.2/0/1.6%でいずれも有意差を認めなかった.SM2以深癌に対し追加外科切除を施行した19例を除き,局所再発は認めなかった.【結語】今回の結果から,直腸ESDは的確な術前診断に基づいて治療選択されていると考えられ,十分な治癒切除率を保ち,結腸と比較して偶発症発症率が低い傾向を認めた.文献的な外科的経肛門的アプローチによる局所切除の成績では,主にRaを対象とするTEM,MITASは偶発症発症率が3.2-10.9%とやや高く,主にRbを対象とする従来法は適応可能な腫瘍径が小さく,局所再発率が13%と高いことを考慮すると,大型の早期直腸癌及び腺腫に対するESDは低侵襲で安全かつ,有用性の高い治療法と考えられた. |