抄録 |
【目的】我々はこれまでにCdx2のみならず, Notchシグナル下流標的因子であるHes1, ATOH1の発現変化がBarrett食道形成に重要な役割を果たしていることを明らかとしてきた. 一方, Notchリガンド群(Delta-like 1; Dll1, Dll4, Jagged-1)がBarrett食道形成に果たす役割については未だ不明である. 今回, 我々はBarrett食道におけるNotchリガンドの発現状況を評価し, Cdx2発現との関連性を検討することでBarrett食道形成への関与について考察した.【方法】検討1:内視鏡下生検にて得られた特殊円柱上皮を伴ったBarrett食道(n=20)と正常食道扁平上皮(n=20)を用いて, Notchリガンド群, Notchシグナル関連因子, Cdx2の発現状況をreal-time PCRと免疫組織染色法によって検討した. 検討2:食道扁平上皮細胞株(Het-1A)にCdx2もしくはDll1発現ベクターを用いて, 強制発現した際のNotchリガンド群および関連因子の発現変化をreal-time PCRとWestern blotで評価した. 検討3:Barrett食道細胞株(CP-A)にCdx2-もしくはDll1-siRNAをtransfectionして発現抑制させた系に胆汁酸刺激試験を施行し, Notchリガンド群および関連因子の発現変化を評価した.【成績】結果1:Barrett食道ではHes1の発現抑制とATOH1, Dll1の発現亢進を認め, Notchシグナルが抑制されていることが示唆された. 結果2:Het-1AにCdx2を強制発現させた際にHes1の発現抑制とATOH1, Dll1の発現亢進が有意に示された. また, Dll1を強制発現させた際にもATOH1の発現亢進が有意に示された. 結果3:胆汁酸刺激にてNotchシグナルは抑制され, Dll1の発現が有意に亢進したが, Cdx2発現を強制抑制させた際に胆汁酸刺激を加えても, Dll1には有意な発現変化は示されず, Dll1発現を強制抑制させた際にも胆汁酸刺激にてATOH1の有意な発現変化は示されなかった.【結論】胆汁酸刺激によるCdx2の発現誘導を経てMUC2の発現をもたらすと同時に, Hes1の発現抑制を介してDll1が誘導されることで, Barrett食道形成において重要な役割を果たしている可能性が示唆された. |