セッション情報 ワークショップ9(消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化器外科学会合同)

分子診断学からみた大腸腫瘍の治療成績と予後

タイトル 消W9-1指:

大腸癌における3群のエピジェノタイプと予後

演者 金田 篤志(東京大・先端科学技術研究センターDELIMITERJSTさきがけ)
共同演者
抄録 大腸癌はジェネティクス異常およびエピジェネティクス異常の蓄積により発症することが知られる。特に遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化は癌抑制遺伝子をサイレンシングする主要なメカニズムである。我々は大腸癌における異常メチル化部位をメチル化DNA沈降(methylated DNA immunoprecipitation, MeDIP)法を用いてゲノム網羅的に探索し、大腸癌メチル化マーカーを樹立、大腸癌149例における異常メチル化を質量分析器MassARRAYを用いて定量的に解析し、2方向性階層的クラスタリング解析を行った。大腸癌症例は明瞭に3群にクラスターした。高メチル化群は癌遺伝子BRAF変異(+)、p53変異(-)、マイクロサテライト不安定性と強く相関した。マイクロサテライト安定な大腸癌は中メチル化群と低メチル化群の2群に分かれ、中メチル化群はKRAS変異陽性と、低メチル化群はBRAF(-)KRAS(-)とそれぞれ強く相関した。これらの大腸癌症例は分子標的薬治療を行っていないが、KRAS陽性の中メチル化群が最も予後不良であった。これらのエピジェノタイプの形成時期に関して前癌病変を解析すると、鋸歯状腺腫がBRAF変異(+)及び高メチル化群を示した。非鋸歯状の従来型腺腫は中メチル化群と低メチル化群の2群にクラスターし、中メチル化群はKRAS変異と強く相関した。異常陰窩(aberrant crypt foci)は癌遺伝子変異のみでメチル化量は非常に低く、腺腫、Stage II, III, IVの大腸癌はほとんど同じメチル化量を呈した。メチル化エピジェノタイプは腺腫の段階ですでに完成しており、また将来予後不良な癌となるKRAS変異(+)中メチル化群は従来型の腺腫に存在する。癌遺伝子変異とメチル化エピジェノタイプの相関に関しては、正常細胞で癌遺伝子が誘導する早期細胞老化の重要な因子を異常メチル化によって不活化することが発癌に重要なため、結果として強い相関関係が認められると考えられ、その知見と合わせて議論したい。
索引用語 大腸癌, メチル化