抄録 |
【目的】潰瘍性大腸炎(UC)は原因不明の慢性炎症性疾患で, 病態に細胞外マトリックス(ECM)が関与していると多数報告されている. Tenascin-C(TNC)は創傷治癒や癌の浸潤等に関与するECMであり, UCの病態形成への関与が示唆される.本研究では, DSS誘発性UCモデルマウスを用いてTNCの発現分布を解析することにより,IBDの病態形成におけるTNCの役割を検討した.【方法】8週齢のBALB/cA(WT)(n=8), BALB/cA-TgH(Tnc)(TNC KO mouse)(n=8), C57BL/6N(WT)(n=8), C57BL/6N-TgH(Tnc)(TNC KO mouse)(n=8)に2% DSSを5日間投与した後, 5日間蒸留水を投与した. 各群2匹ずつ, DSS投与前, 投与5日目, 蒸留水投与2日目, 5日目に大腸を摘出しparaffin切片を作製. HE染色により粘膜炎症の組織学的活動度の比較検討を行うと共に抗TNC抗体による免疫化学染色を施行し各群のTNC発現を比較検討した. 【結果】BALB/cA(WT)では, 2%DSS投与により粘膜障害をほぼ認めなかったが, TNC KO mouseではday5において炎症細胞浸潤などの炎症所見が認められた. また, 蒸留水に変更した後は順次炎症が軽快した. 免疫染色によるTNC発現は期間中ほぼ変化はなかった. 一方, C57BL/6N(WT)では,BALB/cA(WT)と比較してより強い炎症が認められた. TNC発現は上皮直下のみならず, 炎症部に一致して増強を認めた. そして, TNC KO mouseの方がWTと比べ更に強い炎症所見が認められた. 回復期において, 炎症の軽快とともにTNC発現も減少した. 【考察】TNC発現は炎症の度合いに伴い, BALB/cA, C57BL/6の両群において発現量に差が認められた. 両群においてWTよりもTNC KO mouseのほうが比較的より高度な炎症所見が認められた事及び, 回復期に発現量が低下したことから, TNCが過度の炎症に対し抑制的に働いていることが示唆された.【結語】Tenascin-Cの働きとして, 過度の炎症に対して抑制的に働く抗炎症作用および障害粘膜の組織を再構成させる粘膜再生作用が示唆された. |