抄録 |
【目的】大腸発癌においてadenoma-carcinoma sequenceの重要性が以前より報告され,腺腫は前癌病変と考えられている.従来のpolypoid腺腫に加えて,flat腺腫(側方発育型腫; LST)の前癌病変としての重要性が世界中で周知され始めている.プロテアソーム制御分子であるガンキリンは大腸癌組織において高発現しているが,その大腸発癌における役割はわかっていない.そこで,大腸癌および腺腫においてガンキリンおよび幹細胞マーカーの発現を調べ,その制御機構について考察した.【方法】当院において2011年5月から2012月12月の間に,外科的切除された進行大腸癌(n=40)及び内視鏡的切除された腺腫(polypoid腺腫 n=40; LST n=40)においてqRT-PCR,免疫染色法を用いて発癌,幹細胞に関わる遺伝子発現を調べた.また複数の大腸癌細胞株および遺伝子knock-downの手法を用いて遺伝子発現の制御機構について検討した.【成績】大腸癌組織において,癌幹細胞マーカーであるCD133の発現はガンキリンの発現と有意な相関を示した.ガンキリンは,血管内皮増殖因子(VEGF)およびstemness factorであるNanog, Oct4の発現を亢進させる.ガンキリン,VEGFおよびこれらのstemness factorsは,周囲の正常大腸粘膜に比べて腺腫において発現が亢進し,これらの発現量の間には有意な相関を認めた.VEGFは血管新生だけでなく,Nanog, Oct4の発現亢進を介して直接幹細胞の増殖に関わっている.腺腫に比べて上皮内癌においてVEGF, stemness factorsの発現は亢進しており,大腸発癌初期における幹細胞増幅の重要性がうかがわれる.polypoid腺腫とLSTの間で,ガンキリン,stemness factorsなど遺伝子発現,p53変異に差を認めなかった.【結論】ガンキリンはstemness factorsの発現をコントロールすることで大腸発癌に重要な役割を果たしている.LSTもpolypoid腺腫と同様に前癌病変である. |