抄録 |
【目的】胃病変に対する内視鏡的胃粘膜下層剥離術(胃ESD)における穿孔は,胃ESDが広く行われている現在でも1.5~7.7 %に認められる偶発症であると報告され,他の偶発症と比較し時に重篤な転帰をもたらす.今回我々は,胃ESDにおいて認めた穿孔例の特徴について検討した.【対象】2002年6月~2012年12月に当院で胃ESDを施行した804病変782症例を対象とした.ESD術中の明らかな穿孔を顕性穿孔とし,腹膜炎症状を認めないが術後1日目の腹部CT,腹部単純写真で腹腔内遊離ガスを認めた例を不顕性穿孔,また腹膜炎症状を契機に腹腔内遊離ガスが出現した例を遅発穿孔として検討した.【結果】穿孔は全6例(0.77 %)で顕性穿孔3例,不顕性穿孔1例,遅発穿孔2例であった.病変長径は中央値16 mm(範囲:11-32 mm),病変の局在はU1例,M3例,L1例,残胃1例で,治療適応はガイドライン病変,適応拡大病変,腺腫が各2例ずつであった.穿孔した6例のうち4例は予定された退院日あるいはその後数日で退院したが,遅発穿孔の1例は穿孔判明の後外科的切除を要し,もう1例は集学的治療を行ったが術後35日目に死亡した.穿孔の原因を検証すると,(1)基礎疾患の存在,(2)瘢痕を伴う症例,(3)病変の局在,(4)術者の技術の4つの要因があげられた.これらの要因が単独で関与したと思われる症例が4例,複数で関与したと思われる症例が2例であった.【結論】胃ESD穿孔は,その原因がある程度集約されるため,予想される要因を単独あるいは複数で抱える場合には,より慎重な加療が必要である.また,大半は適切な処置で非穿孔例と同様の経過を辿るものの,術部瘢痕の強い症例や基礎疾患を有する症例では遅発穿孔を来す恐れがあり致命的となり得るため,ESDの施行及びその後の経過には細心の注意が必要である. |