抄録 |
大腸癌のStage I,II,III症例に関して、我々は癌の局所環境に注目して、再発リスクについて検討した。近年、癌の局所環境において、非癌部の関わりの重要性が指摘されるようになってきた。我が国では、癌や間質に関する評価はされているものの、腫瘍先進部の浸潤免疫細胞に関する注目度は低い。今回、我々は腫瘍先進部の腫瘍環境について、免疫の観点より検討し評価した。(対象)は2000年から2005年までに当院で経験したStage I,II,III症例169例について検討した。評価項目は従来のTNM 因子、腫瘍側の病理学的因子、budding、腫瘍領域(tCD10)、間質領域(sCD10)、免疫細胞(iCD10)と、無再発期間、生存期間を比較し、免疫抑制に作用するとされるTGFβについても検討した。(結果)CD10染色よりtCD10、sCD10、iCD10と無再発期間、生存期間について比較検討した。iCD10はもっとも、強い危険因子であった。その他に、独立した危険因子として抽出されたものは、腫瘍進達度、リンパ節転移の有無、病理組織型、Buddingであった。多変量解析の中でもっともリンパ節転移因子とiCD10であった。またTGFβ陽性腫瘍とBuddingに相関を認めた。従来のステージで分類すると、5年無再発生存率は、StageI(90%),II(78%),III(58%)であった。そこで、TNM分類にiCD10 low(スケール0,1)とiCD10 high(スケール2,3)の因子を付加することで、3つのリスク分類を行うことが可能であった。5年無再発生存率は Stage Iのハイリスク群(70%)、 IIのハイリスク群(65%)を抽出することが可能であった。さらにStage IIIにおけるハイリスク群の無再発率は25%と低く、きわめて予後不良である群が抽出された。(まとめ)Stage I,IIにおいて、腫瘍先進部にCD10陽性細胞が高度に浸潤している群は、Stage IIIと同様に、予後不良であった。その機序として、TGFβが関わっていることが示唆された。強力な化学療法を行う対象として、腫瘍先端部のCD10 陽性免疫細胞の浸潤が、従来のハイリスク因子に加えられる新しい因子であると考える。 |