抄録 |
【目的】上部消化管出血症例において,心不全の合併は治療に難渋するとされており,速やかな重症度評価および治療が必要である.緊急上部内視鏡検査の必要性を評価するBlatchford Score, Rockall Scoreにおいても心不全の項目があり,その存在により緊急度は増す.しかしながら,上部消化管出血症例における心不全の合併頻度やその予後に及ぼす影響に関して詳細に検討された報告は少ない.今回上部消化管出血症例における心不全の合併頻度や,それの再出血や死亡との関連について検討した.【方法】2006年12月1日から2012年11月31日までに当院にて上部消化管出血と診断し,緊急上部消化管内視鏡を施行した連続145例について,心不全の合併頻度や予後について後ろ向きに検討した.【成績】145症例中38症例(26%)に心不全の合併を認めた. 心不全群においては男性,入院中発症,Forrest2bおよび輸血は非心不全群に比して有意に多く,年齢,呼吸数およびBUN値は有意に高かった.また再出血(再治療を含む)を30症例(21%)に認め,死亡を16症例(11%)に認めた. Kaplan-Meier法を用いた解析にて,再出血および死亡が非心不全群に比して心不全群において有意に高かった(Logrank test;P=0.001およびP=0.003).多変量解析では心不全既往(P=0.009), H2ブロッカー(P=0.008)および止血術の有無 (P=0.008)が再出血の独立した予測因子であり,また入院中発症(P=0.007),肝疾患既往(P=0.047)および心不全既往(P=0.027)が死亡の独立した予測因子であった.【結論】上部消化管出血において,心不全は26%の症例に合併していた.またそれらの症例において,心不全の合併は再出血および死亡の独立した危険因子であり,注意を払う必要がある. |