セッション情報 ワークショップ9(消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化器外科学会合同)

分子診断学からみた大腸腫瘍の治療成績と予後

タイトル 消W9-6:

新たな「分化度」スケーリングを用いた大腸癌形質制御と個別化医療への可能性

演者 加納 嘉人(東京医歯大・消化器内科)
共同演者 土屋 輝一郎(東京医歯大・消化器内科), 渡辺 守(東京医歯大・消化器内科)
抄録 【背景、目的】大腸癌においては病理学的分化度分類より化学療法効果・予後を予測するが、その診断基準は形態学的な腺管形成が主であり癌細胞形質を直接評価した方法は未だ確立されていない。特に癌細胞の分化度と分化形質の関連は不明であり、印環細胞癌は分化形質が維持されているにもかかわらず病理的には未分化癌に分類されるなど「病理の分化度」と「細胞の分化度」は一致していない。そこで我々は細胞の分化度に着目し、大腸癌における分化形質制御機構が癌形質に与える影響を解析することで「細胞の分化度」を基準にした新たな分類を行い、癌特性を個別化することを目的とした。【方法、成績】我々は腸管分化制御転写因子であるAtoh1/Hath1に着目し、ヒト大腸癌ではAtoh1遺伝子発現、蛋白発現が異なることを発見した。APC変異の散発性癌ではAtoh1蛋白はWnt-GSK3依存性ユビキチン-プロテアソーム系蛋白分解により未分化形質を維持する一方で、予後不良な病理的未分化である粘液産生大腸癌ではAtoh1蛋白が発現していることからAtoh1が粘液産生のみならず癌形質に影響すると予想した。そこでAtoh1蛋白分解認識部位を変異させ散発性大腸癌細胞株に導入したところ安定してAtoh1蛋白が発現し粘液産生能を獲得したのみならず、癌幹細胞マーカーであるLgr-5の発現、FUCCIシステムを用いた細胞周期解析ではG0/G1期の延長、抗癌剤耐性形質の獲得を認めた。これは粘液癌の形質である粘液産生と癌幹細胞形質をAtoh1が同時に関与することを示唆した。さらに興味深いことに正常Atoh1遺伝子導入Atoh1蛋白分解細胞では抗癌剤によりGSK3活性が抑制されAtoh1蛋白が安定発現し、癌幹細胞形質を獲得することでアポトーシスシグナルを抑制し抗癌剤耐性を示した。マウス移入モデルにおいても同様の機構を認めた。【結論】Atoh1を指標とした「細胞の分化度」と癌悪性度は負に相関することが示唆され、Atoh1発現パターンは新たな癌形質マーカーとして個別化治療への応用に有用であると考えられた
索引用語 Atoh1, 癌幹細胞