抄録 |
[はじめに]同時性多発胃癌の割合は全胃癌切除症例の約8%程度であると報告されている.ときに全ての病変が術前に発見できず,術後病理検査にて診断されることも少なくない.当院で経験した多発胃癌症例をもとに,術前に診断できなかった多発症例の特徴について考えてみた.[対象・方法]2007年から現在までに術前内視鏡検査をもとに手術を施行した胃癌255症例のうち,術後病理検査にて多発胃癌と診断された20症例(7.8%)を対象とした.これら全多発症例の年齢,性別,術式,病巣数,主病巣の進行度,術前診断の可否について検討した.また術前診断が行えなかった病巣に対して肉眼型,深達度,組織型,病巣の局在について検討を加えた.[結果] 全症例の年齢中央値は73才,男性は17例(85%)であった.施行術式は胃全摘術10例(50%),幽門側胃切除術10例であった.病巣数は2病巣15例(75%),3病巣以上5例(25%)であった.主病巣の進行度は早期癌が11例(55%)であった.術前に診断できなかった症例数は11例(55%)であった.これら11例の年齢中央値は74才,男性9例(82%)であった.術式は胃全摘術5例(45%),幽門側胃切除術6例(55%)であった.病巣数は2病巣6例(55%),3病巣以上5例(45%)であった.主病巣の進行度は早期癌が8例(73%)であった.一方で術前診断が行えなかった病巣数は14病巣あり,肉眼型は0-IIc:10病巣(71%),0-IIb:3病巣(21%)であった.深達度はM癌:12病巣(86%),SM癌:2病巣(14%)であった.組織型は分化型12病巣(86%),未分化型2病巣(14%)であった.病巣の局在はM領域小彎が4病巣と最も多く,M領域前壁,M領域後壁,U領域後壁,L領域大彎にそれぞれ2病巣ずつ認めた.[結語] 術前診断が行えなかった多発胃癌症例の特徴は,主病巣が早期癌であり,多発病巣数が多い傾向にあった.また術前診断が行えなかった病巣の特徴は,0-IIc型の分化型M癌であり,M領域に多い傾向にあった.今回の検討から,とくに早期胃癌症例に対しては胃体部を中心とした多発病巣の存在を念頭に入れた術前内視鏡検査が肝要であることが示唆された. |