共同演者 |
菰田 文武(千葉労災病院・内科), 田口 忠男(千葉労災病院・内科), 久我 明司(千葉労災病院・内科), 桝谷 佳生(千葉労災病院・内科), 春山 航一(千葉労災病院・内科), 田中 武継(千葉労災病院・内科), 安冨 淳(千葉労災病院・外科), 尾崎 大介(千葉労災病院・病理部), 鈴木 拓人(千葉県がんセンター・内視鏡科) |
抄録 |
症例は65歳男性.発症後30年を経た全大腸炎型潰瘍性大腸炎患者であり,臨床的には寛解状態で経過していた.サーベイランスの大腸内視鏡検査で直腸にpolypoid lesionを認め,内視鏡及び生検結果からsporadic adenomaを疑いEMRを施行した.病理結果は粘膜内に限局するcarcinoma in adenomaで,sporadic tumorに矛盾しない所見として経過観察の方針とした.その2年半後に前回切除部位とは異なる直腸に境界明瞭なIIa病変を認め,前回同様sporadic adenomaを疑いESDを施行した.病理結果もsporadic carcinomaの診断となった.いずれも病理的治癒切除であったが,その8か月後には以前の治療部位とは異なる直腸に新規のpolypoid lesionを認め,生検病理でDALM(dysplasia associated lesion or mass)と診断され,全大腸切除及び回腸肛門吻合術を施行した.指摘した直腸病変において悪性所見は認められなかったもののp53染色陽性であり,検索の限りでは他大腸内に新規病変は指摘されなかった.潰瘍性大腸炎に合併したsporadic cancer/adenomaに対する治療は,本邦でのガイドラインで明記されていないが,海外では形態的,病理学的にcolitic cancerと鑑別できれば内視鏡的粘膜切除を施行してよいとされており,最近ではdysplasia病変に対しても境界明瞭であれば粘膜切除可能とする考えもみられている.本症例では境界明瞭な病変に対し,DALMと鑑別した上で2度にわたり粘膜切除を行い,サーベイランスを継続したが,その後短期間にDALMの出現を認め,他病変の存在も否定しきれず大腸全摘に至った.短期間の内にsporadic carcinomaが異時性多発を認めた稀な症例であるが,経過からみると最初の腫瘍発生からDALMだった可能性も否定はできない.実際sporadic tumorとDALMの鑑別は困難なことも多く,本症例も再検討すべき余地がある.両者の現行での鑑別点も含め報告する. |