抄録 |
乳癌の遠隔転移は骨,肺,肝,脳などが好発部位であり,消化管転移は非常に稀とされており,生前に診断されることは比較的少ない.今回乳癌術後経過観察中に消化管転移を来した2症例を経験したので検討を行った.【症例1】60歳代女性.2005年7月に右乳房腫瘤を認め,精査にて乳癌(浸潤性小葉癌,cT2N1M0)と診断し,胸筋温存乳房切除術施行後,内分泌療法を継続していた.その後外来経過観察中に骨転移が出現し放射線療法・化学療法を行った.2011年7月に嘔気・嘔吐が持続したため上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸球部に頂部に発赤を伴う粘膜下腫瘍様隆起を認めた.隆起部からの生検結果は小葉癌であり,乳癌切除標本と比較したところ癌細胞が酷似しており乳癌の十二指腸転移と診断した.十二指腸転移発見時には全身への転移を来しており1か月後に永眠された.【症例2】50歳代女性.2010年11月に乳癌検診で左乳房腫瘤を指摘され当院外科を受診し,精査にて乳癌(浸潤性乳管癌,cT1N0M0)と診断した.胸筋温存乳房切除術施行後,外来で内分泌療法を継続していた.2012年12月に著明な貧血を指摘され,精査目的で下部消化管内視鏡検査を施行した.下行結腸に血管透見の消失した白色粘膜を認め,インジゴカルミン散布にて同部は粘膜下腫瘍様に軽度隆起していた.病変部からの生検結果は乳管癌であり,以前の乳癌切除標本との比較にて癌細胞の類似性を示しており,免疫染色結果も含め乳癌の大腸転移と診断した.大腸転移の他に骨転移・多発肝転移を来していたが,汎血球減少を来しており,全身化学療法施行が困難なため現在も内分泌療法にて治療継続中である.【まとめ】乳癌は女性の悪性腫瘍の中で最も罹患率の高い疾患であり,本邦でも増加傾向である.また,効果的な化学療法や内分泌療法の開発に伴い乳癌術後長期経過後の再発例も増えることが予想される.これらより将来的に乳癌からの消化管転移症例に遭遇する可能性が増加することも考えられ,若干の文献的考察を加え報告する. |