抄録 |
【はじめに】下咽頭腺扁平上皮癌は扁平上皮癌と腺癌の成分が1つの腫瘍内に同時に存在する上皮性悪性腫瘍であり,予後不良とされている.本邦での下咽頭腺扁平上皮癌の報告例は医学中央雑誌で検索したところ,5例と極めて少なく,特に表在癌の報告は極めて稀である.今回,ESDで切除し得た症例を経験したので報告する.【症例】70歳代,男性.既往歴:2年前,上行結腸癌と食道表在癌の同時重複に対し,上行結腸切除術および食道粘膜下層剥離術(ESD)を施行した.結腸癌は0-IIa+IIc(LST-NG), tub1, pM, ly0, v0, 12X12mm,食道癌はMt, SCC, pT1a-EP, ly0, v0, 18X15mmの扁平上皮癌であった.現病歴:食道ESD後,半年毎に経過観察していたが,2年目の定期検査目的の上部消化管内視鏡検査で,左梨状陥凹喉頭側から前壁側に,7mm大の境界明瞭で広基性な隆起性病変を認め,周囲に発赤域を伴っていた.Blue LASER Imaging (BLI) 併用拡大内視鏡では,隆起部に日本食道学会分類type B2血管を認めた.周囲の発赤域はBLIではbrownish areaとなり,拡大するとdot状のtype B1血管が観察された.隆起部からの生検で低分化型扁平上皮癌と診断された.CTでは明らかな転移は認めず,0-IIc+”0-Is”型下咽頭癌,cT1N0M0と診断し,ESDで局所を切除することとした.全身麻酔下で彎曲型喉頭鏡にて喉頭展開し,ESDを施行した.病理組織学的検索で,隆起部は腺管形成を伴う腺癌で形成されており,周囲のIIc領域は主に扁平上皮癌が認められ,上皮下層への浸潤を認めた.中分化~低分化型腺扁平上皮癌,深達度 SEP, ly0(D2-40), v0(EVG), 20X15mmと診断された.隆起性病変の厚さの絶対値は約3mmで,仮想の基底膜から計測した浸潤距離は約1mmであった.ESDから 10カ月経過する現在,再発の徴候なく経過観察中である.【結語】下咽頭表在性腺扁平上皮癌のESD切除例は検索した限りでは,これまで報告がなく極めて稀であると考えられるため,文献的考察を加え報告する.腺扁平上皮癌は悪性度が高いとされるため今後も厳重な経過観察が必要と考える. |