セッション情報 ポスターセッション(肝臓学会)

肝硬変・肝線維化1

タイトル 肝P-160:

肝星細胞コラーゲン産生に対するIGF-Iの調節作用およびその機序の検討

演者 西川 尚子(東京大附属病院・消化器内科)
共同演者 富谷 智明(東京大附属病院・消化器内科), 大友 夏子(東京大附属病院・消化器内科), 井上 有希子(東京大・保健・健康推進本部), 池田 均(東京大附属病院・検査部), 白瀧 博通(獨協医大・分子細胞生物学), 小池 和彦(東京大附属病院・消化器内科)
抄録 【目的】血中IGF-Iの大部分は肝細胞で産生され,全身の様々な細胞の増殖,機能に重要な役割を果たしている.しかし,肝自体に対する作用に関しては不明な点が多い.肝硬変時には血中IGF-I濃度は低値となる.これに対して,ヒトにおけるpilot studyではIGF-I補充による肝機能の改善が認められ,ラット硬変肝モデルにおいてはIGF-I投与による肝線維化の改善等が報告されている.しかし,一方で,IGF-Iは肝星細胞を活性化するともされ,肝線維化に対する意義に関して議論がある.我々はIGF-Iが肝星細胞に対し,増殖は促進するが,コラーゲン産生は抑制することを報告してきた.今回,コラーゲン産生抑制の機序について検討を行った.【方法及び結果】培養中持続的にIGF-I受容体を発現しているラット株化肝星細胞を用いた.IGF-I添加により24時間および48時間後の可溶性コラーゲン量は有意に低下していた.培地中TGF-beta濃度に有意差は認められなかった.一方,IGF-I添加によMMP-9,MMP-2および活性化MMP-2は濃度依存的に増加した.更に,TIMP-1量はIGF-I添加により著明に低下していた.また,細胞内情報伝達系においては,IGF-I添加により,Akt,ERK1/2,およびmTOR系のp70S6 kinaseおよび4EBP-1の活性化を認めた.mTORの抑制剤であるrapamycinを添加すると,IGF-Iにより活性化されたAkt,ERK1/2は影響を受けなかったが,p70S6 kinaseおよび4EBP-1は抑制された.この時,MMP9およびMMP2の発現および活性化も抑制されていた.【考案及び結語】肝星細胞は活性化すると一般には増殖能が亢進し,TGF-beta合成,コラーゲン産生などが促進されるとされている.しかし,IGF-Iは肝星細胞の増殖を促進するが,コラーゲン産生量は抑制された.その機序として,mTOR系を介したコラーゲン分解系の亢進が考えられた.IGF-Iは単なる肝星細胞の活性化因子ではなく,肝線維化の治療に有用である可能性があると推定された.
索引用語 肝星細胞, IGF-I