セッション情報 ポスターセッション(肝臓学会)

原発性肝癌-発癌1

タイトル 肝P-189:

脂質代謝の破綻と肝癌の形成をつなぐ脂質キナーゼSphK1の役割

演者 舩木 雅也(金沢大附属病院・消化器内科)
共同演者 太田 嗣人(金沢大附属病院・消化器内科), 金子 周一(金沢大附属病院・消化器内科)
抄録 【目的】リン脂質の一群は,細胞間や臓器間のメディエーター分子として,種々の生理的・病理的状況で重要な役割を果たしている.なかでも,スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は発癌や癌細胞の増殖に密接に関与する脂質メディエーターとして近年重要視されている.S1Pはスフィンゴシンを基質とし,脂質キナーゼsphingosine kinase 1(SphK1)とSphK2によりリン酸化され生合成される.特に,SphK1の抑制はS1P産生を減少させることから,SphK1はS1Pを介した腫瘍形成の標的センサーと考えられる.一方,非環式レチノイドであるペレチノイン(NIK-333)は肝細胞癌再発抑制作用を有するが,その機序は十分に明らかでない.ペレチノインは脂質センサーである核内受容体RARに結合することから,その抗腫瘍効果にSphK1の制御が介在している可能性がある.今回,脂質メディエーターS1Pを介した肝癌の治療標的として,SphK1の役割をin vitro及びin vivoにて解析した.【方法】1)肝癌細胞株(Huh7/HepG2)を用いて,ペレチノインのSphK1の発現,酵素活性,細胞増殖に与える影響を検討した.2)肝癌モデル動物PDGF-C Tgマウスにペレチノインを投与し,発癌への影響と肝臓のSphK1発現との関連性を検討した.【成績】1)Huh7/HepG2細胞共にペレチノイン添加によりSphK1 mRNA発現は時間・濃度依存性に低下し,SphK1タンパク発現は低下した.さらに32Pを用いたin vitro SphK assayにより測定したSphK1酵素活性の低下を認めた.また,ペレチノインはMTT法により測定した腫瘍細胞増殖能を抑制した.一方,siRNAによる SphK1 knock-down条件下では,ペレチノインの腫瘍抑制効果は抵抗性を示した.2)ペレチノイン投与48週後,PDGF-C Tgマウスの肝発癌は抑制され,24週以降,SphK1 mRNA発現の持続的な低下を伴っていた.【結論】ペレチノインによる肝発癌抑制メカニズムにSphK1活性低下を介したS1P産生低下が関与する.SphK1は脂質代謝の破綻から肝癌の形成を促進するリン脂質代謝調節センサーとして作用している可能性がある.
索引用語 sphingosine kinase, 肝癌