抄録 |
ラット肝臓にIschemic preconditioning(IPC)を行い,肝阻血再還流障害に対する影響について検討した.(方法)Wistar ratに脾臓固着モデルを作成し,portal systemic shunt完成後,4週目に,IPCは10分肝阻血,10分reperfusionを行い,90分間,肝阻血を行った(IPC)(n=10),肝阻血グループは90分間の阻血を行った(I/R)(n=10).各々reperfusion後,3時間目に,ヒアルロン酸(HA),過酸化脂質(MDA),AST ,TNFαを測定し,肝組織を採取した.(結果)1.脾臓皮下固着モデル:ラット総数20匹において脾臓皮下固着モデルを作成した.全例,4週間生存し,温阻血の際,肝十二指腸靭帯クランプによって,明らかな門脈系の欝滞は認められなかった.2.血液生化学的指標:阻血前のAST, HA, MDA, TNFαは,両群において差はみられなかった.しかし,血流再開後3時間後のAST, HA, MDA, TNFαは両群とも,前値に比し有意に高値になるも,IPC群はI/R群に比し,いずれにおいても,有意な低下が認められた.すなわち,AST (u/L)ではI/R (12000±1700) IPC (6800±2400), HA (mg/L)では,I/R (70±30), IPC (2.0±0.6 ), MDA (nMOL/ml)では,I/R (3.8±1.1 ) IPC (2.0±0.69 ) , TNFα(pg/ml)では,I/R (180±50 ) IPC(40±10)であった.3.病理学的所見(HE):I/Rでは,中心静脈周辺の著明な鬱血と肝細胞の空胞壊死を認めた.IPCでは中心静脈周辺の鬱血は少なく,また肝細胞の空胞壊死は軽度であった.PCNA LIでは,I/R 0.61±0.04, IPC 0.83±0.06でIPCが有意に高値を呈した.(結語)IPCは,阻血再還流障害の早期より肝細胞増殖の促進がみられ,このことが,I/Rに比し,IPCでは,阻血再還流障害後の肝臓のAST ,HA,TNFα,MDAの上昇を抑制し,病理学的にも,肝臓空胞壊死の広がりを軽減したと考えられた. |