抄録 |
【背景】粉末シスプラチンは腎障害軽減のため,肝動注時では投与前からの十分な補液が必要とされるが,リピオドール懸濁下での前負荷(補液)に関して統一した見解はない.【目的】粉末シスプラチンを用いた肝動脈化学塞栓療法における適切な補液時間を検討する.【対象と方法】対象は2012年8月から2013年2月まで粉末シスプラチンを用いて肝動脈化学(塞栓)療法を施行した肝細胞癌18例.治療前日から補液を行う群(long hydration群)と,治療直前から開始する群(short hydration群)の2群に無作為割付した.主要評価項目は腎障害,副次評価項目は血中Pt濃度とした.【結果】各群9例計18例が登録された.患者背景は臨床検査値で有意差はなかった.Long,short群の術前補液量中央値は各々1650(1600-1700), 300(250-350)mL,術後補液量中央値は各々1800(1550-3600), 1800(1700-7500)mL.投与CDDP量は各々42±14, 57±18mgであった.治療前のeGFRを100%とした術後1,3,5,7,28日のeGFRの百分率(%eGFR)はshort群で92±13, 91±16, 99±11, 93±7.8, 102±16%に対し,long群では92±7.9, 102±14, 105±24, 114±35, 102±16%で各々有意差を認めないのもの,術後7日ではshort hydration群で低値を示す傾向がみられた.術後15分,2,4,24時間のtotal Pt濃度はshort,long群ともに有意差はなかった.Free Ptはshort群で1.07±0.29, 0.138±0.076, 0.0317±0.026, 0.010±0.022μg/ml, long群で0.78±0.48, 0.093±0.078, 0.022±0.026, 0.013±0.022μg/mlと有意差ないものの,short群で術後4時間までは高値を示す傾向がみられた.なお,CDDP投与量あたりのfree Pt値は両群間に有意差を認めなかった.【考案・結語】粉末シスプラチンを用いた肝動脈化学塞栓療法において,術直前から開始するshort hydration法は術後28日で前値に復していることから,忍容性があると考えられる.しかし,術直後,亜急性期の腎機能,free Ptの推移からは,long hydration法の方が腎保護の面で安全ともいえる. |