抄録 |
【背景と目的】VEGF遺伝子は数種のFamily遺伝子があり,がんの進展や転移に関与.この中でVEGF-C遺伝子はリンパ管の新生に関与しリンパ節転移に関連すると考えられている.肝細胞がん(HCC)ではリンパ節転移の発症は稀であるが剖検例では約20%程度の症例でリンパ節転移を認めることが報告されている.HCC切除症例でのVEGF-C遺伝子の発現を検討した.【方法】HCV陽性HCC症例1例で非癌部と癌部を比較する発現アレイ,メチル化アレイ,SNPアレイを施行.非癌部より癌部で発現が低下し,癌部でよりメチル化を示した遺伝子としてVEGF-C遺伝子を抽出し発現制御の機序を推察した.48症例の切除標本で定量RT-PCRにて発現を検討,メチル化特異的PCR(MSP)によりメチル化を調べ,これらの結果と臨床病理学的な関連を統計学的に検討.【成績と考察】発現アレイでVEFG-C遺伝子はRog2 ratio -1.3と癌部で発現が低下.メチル化アレイではメチル化値が非癌部は0.204,癌部では0.784とより高いメチル化を示した.SNPアレイでは遺伝子座に染色体の欠失,増幅ともに認めず.定量RT-PCRの検討で29症例で発現低下.また,癌部の26症例でメチル化を認めた.この26例中21例で発現が低下し癌部の発現低下とメチル化は有意な関連を認めた(p=0.045).また,6例では非癌部でのメチル化を認めたが癌部ではメチル化を認めず(de-methylation). この6例中5例では発現が2倍以上に上昇.発現の上昇と脱メチル化は有意な関連を認めた(p=0.043). その他の臨床病理学的因子と発現変化,メチル化とは相関は認めず.HCCにおいてリンパ節転移が稀であることはVEGF-C遺伝子の発現が低下する症例が多く,その発現制御はメチル化によるものと考察する.また,稀な症例では癌部での発現が上昇し脱メチル化が発現上昇の機序と考えられた.【結論】マルチアレイ法にてHCC でのVEGF-C遺伝子の発現調節機序の推察が可能であった.HCCでもVEGF-C発現が上昇する症例ではリンパ節転移に対する注意も必要であると考えられた. |