抄録 |
糖尿病治療の目標は,血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロールにより,細小血管合併症や大血管合併症の発症・進展を阻止することで,健康な人と変わらないQOLを維持することにある.現在,糖尿病治療はインクレチン関連薬の登場により大きな転換期を迎えている.インクレチン関連薬には,低血糖や体重増加の懸念が少ないことから期待が高まっているが,臨床応用されてからの期間が浅いため,今後,長期安全性に関するエビデンスが待たれるところである.一方,半世紀以上にわたって臨床使用されているメトホルミンは,長期安全性が確立された薬剤であり,心血管合併症抑制のエビデンスがあることに加え,その多面的作用が注目を集めている.メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖complex1に作用し,AMPキナーゼを活性化させることで肝臓での糖新生を抑制する薬剤である.その血糖改善効果は肥満,非肥満に関わらず用量依存的であり,最近では,脂肪肝減少作用や体重減少作用に加え,メトホルミン服用者では癌の発症が少ないという疫学研究が次々に報告され,今後,前向きな研究による検討が期待されるところである.以上のような特徴を有するメトホルミンであるが,海外の報告では,メトホルミン服用者のうち1~7人(症例/10万人/年)に乳酸アシドーシスが発症しており注意が必要である.本セミナーでは,メトホルミンの有効性と安全性を踏まえ,メトホルミン投与が適する対象について考えてみたい. |