セッション情報 ワークショップ12(肝臓学会・消化器病学会合同)

日常臨床のジレンマ-NASHかASHか?

タイトル W12-基調講演:

アルコール性肝障害と非アルコール性脂肪性肝疾患のクロストーク

演者 西原 利治(高知大・消化器内科)
共同演者
抄録 検診受診者の4人に1人で肝障害が認められ、アルコール性肝障害と非アルコール性脂肪性肝疾患とを合わせるとその8割を占め、成人の有病率は2割にも及ぶ。これらの肝障害では大滴性脂肪滴が肝小葉中心性に蓄積する脂肪肝から肝細胞周囲性の線維化像を示す症例、さらには肝硬変に至るまで多彩な病期が観察され、両者を病理学的に判別することは容易ではない。本邦では両者を効率よく鑑別する方策として1日あるいは1週間当たりのエタノール消費量が用いられ、20g/日を閾値としているが、その根拠はどのようなものであろうか。
少量のエタノールは主にADHにより代謝され、この系が飽和するとKm値の高いCyp2E1を中心とするMEOS系が分担することになる。多量飲酒では肝障害を生じる率が高いのに対して、少量の飲酒では肝障害をきたすことはまれであることから、エタノールにより酵素誘導が可能なCyp2E1の肝細胞障害への関与が想定される。他方、少量の飲酒によりCyp2E1の酵素誘導があれば、時に過量飲酒を行ってもADHによるアセトアルデハイドの過剰産生を軽減できるので肝細胞への負荷も軽減されるのではないかとの推測もなされている。Cyp2E1は脂肪肝でも誘導できることが知られており、少量の飲酒によりCyp2E1の酵素誘導があれば、肥満により過剰に負荷された脂肪酸を円滑にCyp2E1が代謝して、肝細胞への負荷を防ぐことができるのではないかとの推測も成り立つ。
日常的な飲酒が広く行われている地域では、アルコール性肝障害と非アルコール性脂肪性肝疾患を峻別することは不可能であり、脂肪肝によるアルコール性肝障害への感受性増大、飲酒による非アルコール性肝障害の増悪といったクロストークは常に生じていると思われる。このような観点から本主題に参加いただき、生活習慣への介入を日常診療における有力なツールとしていただければ幸いである。
索引用語 alcoholic liver disease, nonalcoholic fatty liver disease