抄録 |
【目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)の診断基準には,1日の摂取飲酒量がエタノール換算で20g以下/日であることが含まれており,過剰の飲酒が関与していないことを確認することが必須である.しかし,血液生化学的あるいは組織学的には,飲酒の関与を鑑別することは難しい.そこで今回,当科でNAFLDと診断された症例を改めて詳細に問診を行い,確定診断の精度を検討した.【方法】組織学的診断を得ているNAFLD42例を対象とした.飲酒量は,エタノール換算とし,1日あたりのエタノール量として表記した.なお,機会飲酒例もその回数と量をできる限り詳細に問診し,日割り計算を用いて表記した.飲酒の血液生化学的マーカーとして用いられている血清AST, ALT, γ-GTP, ヒアルロン酸, AST/ALT比および平均赤球容積を測定した.【成績】全例,診断時の1日の摂取飲酒量はエタノール20g以下/日であった(全体:3.4±6.6 g/日, 男:6.1±8.0 g/日 女:0.1±0.2 g/日).しかしながら,過去の生活習慣に摂取飲酒量がエタノール20g /日を超える症例を14%(36.9±12.6 g/日)認めた.また,完全非飲酒者は16%であり,完全非飲酒者の中でNASH症例は57%であった.飲酒者(エタノール換算で20g以下/日)の中でNASH症例は25%であった.NASHと診断された症例の中には,症例1:64歳男性,NAFLD診断基準を満たす症例で食事療法と運動療法では肝障害が改善せず,断酒を指導したことにより肝障害の改善を認めた症例,症例2: 54歳男性で以前は常習飲酒家(58 g/日×25年)でアルコール性肝障害の診断で断酒し肝障害正常化を認めたが,その後急速に太り始め,また肝障害が指摘されるようになった症例などが含まれていた.【結論】詳細な飲酒歴を問診することはNAFLD診断には重要であるが,現在のNAFLD診断基準を満たす症例の中にアルコール性肝障害が含まれる可能性があることを念頭に診療にあたることが重要である. |