セッション情報 ワークショップ「胆膵疾患診療のup to date」

タイトル WS-05:

当科における慢性膵炎に対する取り組み

演者 坂田 直昭(東北大学 消化器外科)
共同演者 元井 冬彦(東北大学 消化器外科), 吉田 寛(東北大学 消化器外科), 内藤 剛(東北大学 消化器外科), 三浦 康(東北大学 消化器外科), 廣田 衛久(東北大学 消化器内科), 正宗 淳(東北大学 消化器内科), 片寄 友(東北大学 統合がん治療外科学講座), 江川 新一(東北大学 災害科学国際研究所), 下瀬川 徹(東北大学 消化器内科), 海野 倫明(東北大学 消化器外科)
抄録 近年、慢性膵炎症例に対する膵全摘術+自家膵島移植がアメリカの膵島移植施設を中心に進められているが、本邦への導入にあたっては議論がある。当科は膵疾患における日本有数のHigh volume centerであり、消化器内科の協力のもと、多くの慢性膵炎診療を進めてきた。今回、慢性膵炎の外科的治療法として当科で最も行われているFrey手術に対し、その膵内分泌機能評価を中心とした治療成績を報告する。1997年から2006年にかけて外科的治療が施行された慢性膵炎症例71例のうち、Frey手術が施行された症例は57例(80.2%)であった。平均年齢は49歳、男女比は54:3、成因はアルコール性が80.7%であった。この57例について、術前後の除痛効果、耐糖能変化について比較検討した。除痛効果は腹痛をスコア化(0: 痛み無し、1: 鎮痛剤不要、2: 鎮痛剤必要、3: 鎮痛剤で疼痛コントロール困難)することで比較した。耐糖能評価項目は血糖値、HbA1c、1日当たりのインスリン使用量とした。術前の疼痛スコアが2.56±0.11に対し術後1、3年ではそれぞれ0.65±0.15(p<0.0001), 0.63±0.17(p<0.0001)、疼痛完全消失率(疼痛スコア0)が62.2%、64.5%、疼痛改善率(スコアの低下)が91.1%、93.5%、疼痛による再入院率が7.1%、23.1%であった。手術関連死亡率が0%(その後の検討で1例死亡)、合併症率が14%であった。血糖値は術前、術後1、3年で142.0±8.4 mg/dL、139.0±8.7 mg/dL、146.1±10.2 mg/dL、HbA1cが6.4±0.2 %、6.5±0.2 %、6.8±0.3 %、インスリン使用量が7.1±1.8 単位/日、6.7±1.8 単位/日、7.1±2.8 単位/日であった。術後の糖尿病発症率は6.3%、糖尿病増悪率は14%と低率であった。以上より、Frey手術は安全性と除痛効果に優れた術式であるとともに、耐糖能保護に対しても有効であると考えられた。後ろ向き試験ではあるが、この成績はKeck(2012)らなどの既報と比べても遜色の無いものである。一方,既報での膵全摘術+自家膵島移植は、術後の完全な除痛が得られる訳ではなく、50%が術後にインスリンが必要になる。以上を考慮すると、現時点においてはFrey手術が慢性膵炎の標準術式と考えられる。
索引用語 慢性膵炎, Frey手術