抄録 |
【症例】45歳、男性。【主訴】発熱、全身倦怠感。【既往歴】特記事項なし。【現病歴】2012年9月下旬から易疲労感、全身倦怠感あり、10月20日頃より発熱あり改善なく29日近医受診。炎症反応及び胆道系優位の肝機能障害を認め当科紹介され30日受診。39.5度の発熱、採血上前医同様に炎症反応及び肝機能障害を認め、造影CTにて上行結腸の壁肥厚と近傍にガスを伴う軟部影及び上腸間膜静脈、門脈内に血栓を認め入院となった。【初診時検査所見】WBC 23600/mm3 (seg 87.5%), RBC 419万/mm3, Hb 13.3g/dl, Plt 27.8万/mm3, PT 77.3% PT-INR 1.12 APTT 33.0sec, AT-III 84%, T-Bil 9.01mg/dl, D-Bil 7.28mg/dl, AST 65U/l, ALT 106U/l, ALP 991U/l, LDH 282U/l, gGTP 461U/l, BUN 18.2mg/dl, Cre 1.51mg/dl, CRP 18.38mg/dl, CEA 1.5ng/ml, CA19-9 14.4U/ml, procarcitonin >10.0ng/ml.【経過】CT所見から上行結腸憩室炎及び膿瘍に起因した腸間膜静脈、門脈血栓と診断した。絶食、抗生剤(DRPM)、heparin持続静注にて加療し、徐々に炎症及び肝機能は改善した。入院8日目より経口摂取開始にても増悪なく、10日目からwarfarinの内服を開始、14日目の造影CTにて血栓及び膿瘍の縮小を認め、21日目に退院となった。今後外来で経過観察、大腸内視鏡予定である。なお、Protein S, ProteinC, AT-IIIなどはいずれも正常であり、経過から憩室炎からの腹腔内膿瘍に起因するものと考えられた。【考察】腸間膜静脈血栓症は、腸間膜静脈の血流障害により腸管の鬱血性梗塞をきたす疾患で、重症例では腸管壊死に至り致命的になることもある。原因としてProtein S, ProteinC, AT-IIIなどの凝固抑制因子の先天的異常、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍、炎症性疾患などを有する症例が大部分であり、本例は画像や検査結果から憩室炎が原因となった上腸間膜静脈、門脈血栓症と診断した。治療法は手術、抗凝固療法、血栓溶解療法などの報告があるが抗菌薬のみで改善した症例も見られる。本例は比較的稀であり貴重な症例と考えられた事から、若干の文献的考察を含め報告する。 |