セッション情報 特別企画 後期研修医(卒後3-6年)

タイトル W-16:

抗てんかん薬に起因すると考えられる薬剤性重症急性膵炎の1例

演者 菊池 弘樹(国立)
共同演者 木村 憲治(国立), 梅津  輝行(国立), 吉田 はるか(国立), 高野 幸司(国立), 宍倉 かおり(国立), 山尾 陽子(国立), 塩塚 かおり(国立), 杉村 美華子(国立), 阿子島 祐倫(国立), 野口 謙治(国立), 田邊 暢一(国立), 岩渕 正広(国立), 高橋 広喜(国立), 真野 浩(国立), 鵜飼 克明(国立), 田所 慶一(国立)
抄録 【症例】18歳、男性【既往歴】自閉症、重度精神遅滞、てんかん【現病歴】平成22よりけいれん発作に対して近医にて抗てんかん薬バルプロ酸が投与されていた。平成24年6月、通所施設職員が元気のないことに気づき前医受診、入院となった。翌日膵酵素上昇を含む検査値悪化のため急性膵炎疑いで当院搬送となった。【入院時検査所見】急性膵炎重症度判定基準予後因子では、BE -7.8mmol/L、CRP 23.2mg/dLの2項目が該当し2点、腹部造影CTでは、膵頭体移行部から尾部の広範囲に造影不領域を認め壊死に陥っているものと考えられた。また炎症が両側腎下極をこえていることから計4点のGrade3と判定し、重症急性膵炎の診断となった。ただちに血管造影を施行し、脾動脈、大膵動脈に炎症の波及によると思われる不整を広範に認めたため腹腔動脈根部に4.2Fr modified SHKカテーテルを留置。メシル酸ナファモスタット250mg、ビアペネム1.2gの持続動注、ウリナスタチン35万単位、クリンダマイシン1.2gの全身投与で治療開始し、人工呼吸器管理のもとにCHDFを開始した。経過中電解質バランスの補正に難渋し不整脈やARDSを合併したが、1か月後に抜管できた。腹部CTにて膵体尾部および膵外の腹腔内に巨大な仮性嚢胞が形成されたが明らかな嚢胞感染の合併は認められなかった。経口摂取開始後一時的な膵酵素の再上昇あり、膵管系の仮性嚢胞内腔への交通が疑われたが、明らかな嚢胞の増大なく経過している。【考察】平成21年5月厚生労働省により重篤副作用疾患別対応マニュアルが作成され薬剤性膵炎に対する注意が喚起されているところであるが、その中でもバルプロ酸ナトリウムは膵炎との因果関係が確実な薬剤に位置付けられている。本症例は若年であり、他に膵炎の原因が明らかでないことから薬剤性膵炎と考えられた。重度精神遅滞症例では腹痛の訴えが明らかでないことが多く、理学的所見や検査結果の解釈にはより慎重を要すると考えられる。また、原因不明の膵酵素上昇を示す症例においては、症状が明らかでなくとも薬剤性膵炎の可能性を念頭に置き診療にあたる重要性が示唆された。
索引用語 薬剤性膵炎, 抗てんかん薬