抄録 |
症例は70歳代、女性。H24年2月、右下腹部痛を認め内科受診、急性虫垂炎を疑われ、抗生剤処方され帰宅した。その後、腹痛が改善しないため内科を再受診し、その後外科紹介となった。腹部CTにて腫大した虫垂を認め、急性虫垂炎疑いで入院となった。入院時現症は、体温37.1度、腹部は平坦,軟で、腫瘤は触知しなかった。右下腹部に軽度の圧痛を認めるも、Blumberg signおよびDefenceは認めなかった。血液検査所見では、WBC 5,700/μl, CRP 1.5mg/dl, CEA 6.1ng/mlと軽度の炎症反応および腫瘍マーカーの上昇を認めた。保存的治療にて腹痛は軽減したが、虫垂腫瘍も否定できないため大腸内視鏡検査を施行した。虫垂開口部が開大して粘液の排出を認め、粘膜下腫瘍様に隆起していた。粘液細胞診ではclass IIであった。注腸検査では虫垂は描出されず、盲腸に粘膜下腫瘍様の陰影欠損を認めた。腹部CTの再検査にて、辺縁は明瞭で造影効果伴う腫大した約5cm大の虫垂を認め、内部は均一な低濃度を呈していた。腹水やその他の腫瘍性病変は認めないため、虫垂粘液膿腫と診断し、H24年3月腹腔鏡下回盲部切除術(D2)を施行した。術中所見では、腹腔内に腹水や粘液貯留はなく、虫垂は緊満するも、明らかな漿膜面の変化は認めず、回腸動脈沿いのリンパ節に腫脹を認めた。悪性腫瘍の可能性も完全に否定できないため、内側アプローチで回腸動静脈を根部付近で切離後、回盲部を授動し、右下腹部に小切開をおいて、腸管を体外に誘導して回盲部切除を行った。病理組織検査では、嚢胞壁が単層の異型円柱上皮に、乳頭状に覆われ、それらの上皮が粘液産生性であり、特に腫瘍細胞の浸潤を認めず、虫垂拡張部に限局していることから、虫垂粘液性嚢胞腺腫の診断となった。また、術後CEA は2.1ng/mlと正常化していた。術後経過は良好で第15病日に退院し、約1年経過するも再発徴候なく外来通院中である。虫垂粘液膿腫は比較的まれな疾患であり、文献的考察を加え報告する。 |