セッション情報 特別企画 後期研修医(卒後3-6年迄)

タイトル O-31:

漢方薬長期服用患者に発症した特発性腸間膜静脈硬化症の一例

演者 浅間 宏之(福島労災病院 消化器科)
共同演者 市井 統(福島労災病院 消化器科), 加藤 由理(横浜市立大学附属病院 消化器内科), 喜田 栄作(福島労災病院 消化器科), 松橋 暢生(福島労災病院 消化器科), 田井 真弓(福島労災病院 消化器科), 鈴木 智浩(福島労災病院 消化器科), 江尻 豊(福島労災病院 消化器科), 箱崎 半道(福島労災病院 臨床病理科)
抄録 【症例】50歳代,女性.【主訴】下痢.【現病歴】以前より上気道炎症状を繰り返しており,2007年12月より近医で辛夷清肺湯を処方されていた.2012年9月末より難治性の下痢が出現し,同年10月に当科に紹介となった.【既往歴】慢性副鼻腔炎,気管支喘息,脳梗塞.【生活歴】飲酒・喫煙なし,輸血歴なし.【経過】下部消化管内視鏡検査では,右半結腸の大腸壁は全体的に暗青色で,浮腫状であり,拡張・蛇行した異常血管や血管透見像の消失を認めた.特発性腸間膜静脈硬化症(以下,IMP)を疑い,生検を施行した.右半結腸からの組織では,HE染色で粘膜深部に静脈壁の肥厚を認め,血管壁はマッソン・トリクローム染色で同心円状に染色されることから,膠原線維に取り囲まれていると考えられた.腹部CTではIMPに特異的とされる腸管壁に沿った石灰化は認めなかったが,上行~横行結腸に壁肥厚を認め,門脈3D-CTでは上腸間膜静脈の右半領域が造影されず,静脈還流障害が示唆された.以上のことから,IMPと診断した.辛夷清肺湯による影響も考えられたため,同薬の内服中止と対症療法にて保存的に加療し,症状の軽快を認めた.【考察】IMPは,何らかの原因により腸間膜の静脈還流障害が起き,腸管の浮腫や慢性の虚血性変化をきたす原因不明の疾患で,日本人を中心にアジア人にのみ報告がある.近年,IMP患者における漢方薬の長期服用症例が報告されており,漢方薬服用IMP症例25例についての検討では,漢方薬の平均服用期間は13.9年と長く,服用内容としては加味逍遥散12例,辛夷清肺湯5例,黄連解毒湯4例と,全ての症例で山梔子(サンシン)を含む漢方薬を服用していた.本症例でも辛夷清肺湯を約5年間服用していた.山梔子を含有する漢方薬には,防風通聖散,加味逍遥散,加味帰脾湯などがあり,内科・婦人科・心療内科・耳鼻咽喉科など様々な科で処方される頻用薬である.そのため,特に長期服用患者においては下部消化管内視鏡を含めた検査を行う必要性が示唆された.
索引用語 特発性腸間膜静脈硬化症, 漢方薬