セッション情報 シンポジウム1「高齢者における消化管疾患の診断・治療の問題」

タイトル S1-7:

本邦における高齢者大腸癌の臨床病理学的・分子生物学的特徴とその前癌病変としての大腸鋸歯状病変の重要性

演者 能正 勝彦(札幌医科大学 医学部 第一内科)
共同演者 山本 博幸(札幌医科大学 医学部 第一内科), 篠村 恭久(札幌医科大学 医学部 第一内科)
抄録 【目的】現在、大腸癌は男女ともに日本人の癌死亡原因の上位を占め、特に高齢者の右側結腸癌の増加が報告されている。欧米では高齢者の右側結腸癌の特徴として、女性、BRAF遺伝子変異やMLH1のメチル化、マイクロサテライト不安定性(MSI)大腸癌が多いと報告されている。また大腸鋸歯状病変のsessile serrated adenoma/polyp (SSA/P) はそれらの異常の頻度が高いことからその前癌病変として注目されている。しかしながら本邦において多症例の高齢者大腸癌や鋸歯状病変の臨床病理・分子生物学的特徴を解析した報告はほとんどない。よって今回、我々は1438例の大腸腫瘍を対象にそれらの検討を行った。【方法】当施設と関連施設で治療された鋸歯状病変383例(過形成性ポリープ 141例、SSA/P 124例、鋸歯状腺腫 118例)と大腸腺腫(230例)、癌(825例)の検体を用いて、その臨床病理学的特徴とKRAS、BRAF、PIK3CA変異、MLH1メチル化やMSIを検討した。【成績】高齢者(75歳以上)の癌は全大腸癌の27%(222例)であり、その57%が女性、46%が右側結腸、BRAF変異は8%、MLH1メチル化は48%(75歳未満では女性38%、右側結腸34%、BRAF変異4%、MLH1メチル化39%)であり、75歳未満の癌と比べ、いずれも有意差を認めた。また124例のSSA/Pのうち高齢者は10例(8%)で認められ、全例右側結腸であった。また高齢者SSA/PのMLH1メチル化は33%、MSIは20%(75歳未満でそれぞれ9%、0%)で、それらの遺伝子異常は高頻度に認められた。一方、高齢者の過形成性ポリープや鋸歯状腺腫、大腸腺腫では75歳未満のそれらの腫瘍と比較して臨床病理・分子生物学的因子で有意差を認めなかった。【結論】本邦における高齢者大腸癌は女性、右側結腸に多く発症する傾向があり、BRAF変異やMLH1メチル化の頻度も高いことが今回の検討で明らかとなった。また高齢者のSSA/PはMLH1メチル化やMSI等の異常が高頻度であることから癌化の危険性が高く、それらのほとんどが右側結腸に存在することから、高齢者の内視鏡検査では深部大腸の詳細な観察が必要と考えられた。
索引用語 高齢者, 大腸癌