セッション情報 合同ワークショップ「消化器疾患における診断治療困難例への対処」

タイトル 068:

当院で経験したaortoenteric fistulaの5例の検討

演者 松原 悠(札幌東徳洲会病院 消化器センター)
共同演者 太田 智之(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 巽 亮二(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 好崎 浩司(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 坂本 淳(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 佐藤 龍(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 網塚 久人(札幌東徳洲会病院 消化器センター), 木村 圭介(札幌東徳洲会病院 消化器センター)
抄録 【背景】大動脈瘤の消化管内への穿破は,剖検例の0.05~0.07%に認められる稀な症例であり,aortoenteric fistulaと呼ばれることも多い.内視鏡医としては,消化管出血で遭遇する患者の中にこの疾患が含まれていることは常に念頭に置くべきである.造影CTによる診断の有用性が強調されている一方,緊急内視鏡が先行した場合は診断に苦慮することが予想されるからである.この度当院にて経験したaortoenteric fistulaの症例をretrospectiveに検討し報告する.【症例】2007年12月から2013年11月までの期間,当院で経験したaortoenteric fistulaの症例は5例(男性4例,女性1例)で,平均年齢は80.2歳であった.主訴は吐下血が4例,意識障害が1例であったが,来院後の診断は全例で消化管出血を認めた.来院時shock vitalの症例は3例で,平均値は収縮期血圧が97.2mmHg,拡張期血圧が60.8mmHg,脈拍が92.2回/分であった.主な血液検査の平均値はBUN 49.9mg/dl,Cr 2.1mg/dl,Hb 7.5g/dl,WBC 16820/uL,CRP 6.9mg/dl,PT(INR) 2.0であった.診断は全例腹部造影CTにて判明したが,緊急内視鏡が先行した症例が3例認められ,その全例が内視鏡では診断できなかった.診断時の腹部造影CTは全例で消化管へのleakを伴う腹部大動脈瘤を認め,瘤最大径の平均は52.4mmであった.人工血管置換後の症例は2例であった.穿破部位は十二指腸3rd portionが2例,小腸が3例であった.治療方針で手術となった症例が3例,ADLや年齢から保存的治療となった症例が2例であったが,転帰は5例中4例が生存退院した(平均入院日数33.2日).【考察】aortoenteric fistulaの診断には腹部造影CT検査や腹部超音波検査などが有用であるが,緊急内視鏡が先行された場合は確定診断に至らず患者を失う可能性が高くなる.しかしながら全ての消化管出血の患者に腹部造影CTを先行することは難しく,医療経済的にも現実的ではない.従って消化管出血の患者に緊急内視鏡が必要になる場合,大動脈瘤やその手術の既往,腹痛や背部痛などの他の身体所見を確認し,同疾患を鑑別とした適切な画像検査を選択する判断が求められる.
索引用語 aortoenteric fistula, 腹部大動脈瘤破裂