抄録 |
44才の男性が健診時に指摘された肝障害の精査目的に受診した。患者は18才時に超音波検査で胆嚢結石と脂肪肝を指摘されており、担当医より減量を勧められていた。理学的にはBMI 24.2(身長 170cm1、体重 70kg) とやや肥満傾向にあったが、その他には格別な病的所見を認めなかった。検査成績ではAST 95 U/L、ALT 243 U/L、ALP 370 U/L、GGT 220 U/L、血清フェリチン792 ng/mL、トランスフェリン飽和率43%、HBs抗原(-)、HCV抗体(-)、抗核抗体(-)、抗ミトコンドリア抗体(-)、脂質検査正常、甲状腺ホルモン検査正常、空腹時血糖 94mg/dL、HbA1c 4.8 %、HOMA-IR 1.55。 腹部超音波検査では高度の脂肪肝と軽度の脾腫(長軸 123mm)が認められたが肝変形は認めなかった。減量が指示され、以後2か月の間に5kgの減量に成功したがトランスアミナーゼの改善は見られなかった。肝生検が施行され、肝小葉の30~50%に及ぶ脂肪化が見られたが、NASHに特徴的とされるballooningは確認できず、また鍍銀染色でもpericellular fibrosis を認めなかった。ベルリンブルー染色では、肝細胞に一様に淡く鉄沈着がみられ、NASHに一般的に観察される門脈域周囲の類洞優位の沈着ではなかった。いずれにしても鉄過剰は明らかであったので瀉血療法を開始した。最初の400mLの瀉血の一週間後にはALTは220U/Lより66U/Lに急激に改善しており、以後毎週施行された3回の瀉血によりALTはほぼ正常化し、6回の瀉血で血清フェリチン<50ng/mLを達成した。NASHの診断は肝生検によっておこなわれ、肝細胞のballooningが病理診断のhallmarkとされ、今日ではpericellular fibrosisは必ずしも診断に必要とはされていない。しかし軽度のballooningの診断は時として曖昧となり、果たして本症例で軽度のballooningがあるかどうかで診断が分かれる。本例では鍍銀染色と鉄染色を加えて病理学的検討を詳細に行ったが、NASHの確診に至らなかった。鉄過剰を伴う未知の病態の可能性が示唆された。 |