| 共同演者 |
厚川 正則（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 糸川 典夫（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 近藤 千紗（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 星野 慎太朗（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 鈴木 将大（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 楠 正典（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 田中 周（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 岩切 勝彦（日本医科大学千葉北総病院 消化器内科）, 坂本 長逸（日本医科大学 消化器内科） |
| 抄録 |
ERCPによる合併症は軽度から重篤な事象まで様々な報告があるが, 今回我々は術中における空気塞栓による脳梗塞を発症した稀な症例を経験したので報告する. 症例は75歳, 男性. 総胆管結石による胆管炎に対し胆管プラスチックステントを留置した既往歴がある. 今回心窩部痛を主訴に来院し, 血液生化学検査にて肝胆道系酵素、炎症反応上昇を認め, 腹部CT検査にて胆管ステントの脱落と下部総胆管結石陥頓による胆管炎を疑う所見であった. 緊急ERCPを施行しENBD留置による胆道ドレナージを行い炎症反応の改善を得た. 後日待機的にEST施行し採石を行った. ERCP後, 患者のsedation後の覚醒不良があり, 術中の高血圧に伴う脳出血などを疑い直ちに頭部CTを施行した. 頭部CTでは静脈内にair densityを散見する, いわゆる気脳症を疑う所見であった. また頭部MRI拡散強調画像上, 明らかな梗塞巣は認めず経過観察とした. しかし翌日も意識レベルの改善が認めなかったため再度画像検査施行したところ, 頭部CTでは静脈内空気は消失していたが頭部MRIでは梗塞巣が多発していた. 以上よりERCP術中の空気塞栓による脳梗塞を疑いedaravone, glycerinによる保存的治療開始. その後意識レベルは改善するも左半盲, 左上肢不全麻痺が残存した. ERCP中の空気塞栓による脳梗塞の原因として, 既存する胆管静脈シャントと動静脈シャントの存在が考えられる. 我々は本症例において, 経食道エコーにて動静脈シャントになりうるPFO開在を明らかとしたが, 胆管静脈シャントの存在は画像検査にて証明することはできなかった. 現時点で報告されているERCP術中での空気塞栓（脳梗塞、肺梗塞、心筋梗塞）による報告はわずか8例であり, そのうち6例が死亡している. 本邦での報告はまだなく, また本症例は空気塞栓により脳梗塞を発症したが生存した稀な症例であった. ERCP中の合併症として遷延する意識障害を認めた場合, 気脳症の可能性を考慮し適切な診断と治療を速やかに施行すべきである. |
