セッション情報 研修医セッション(卒後2年迄)

タイトル 60:

突然の左下腹部痛を主訴に来院した下行結腸腹膜垂炎の一例

演者 大内 治紀(NTT東日本関東病院 消化器内科)
共同演者 田島 知明(NTT東日本関東病院 消化器内科), 三角 宣嗣(NTT東日本関東病院 消化器内科), 小豆嶋 銘子(NTT東日本関東病院 消化器内科), 港 洋平(NTT東日本関東病院 消化器内科), 野中 康一(NTT東日本関東病院 消化器内科), 大圃 研(NTT東日本関東病院 消化器内科), 松橋 信行(NTT東日本関東病院 消化器内科)
抄録 症例は65歳女性.主訴は左下腹部痛.高血圧,うつ病,不眠症,甲状腺機能低下症で当院各科にて加療中であった.平成25年5月下旬,朝方より突然の強い左下腹部痛を自覚し,その後改善を認めなかったため当科外来受診となった.現症は,身長152.0cm,体重63.4Kg,BMI 27.5kg/m2と肥満を認めた.左下腹部に限局した持続する強い疼痛と圧痛を認めたが,腹部は平坦・軟で腹膜刺激症状は認めず腸蠕動音は正常であった.血液検査所見は脂肪肝によるものと思われる肝胆道系酵素の異常とCRP 1.2 mg/dlとごく軽度の炎症反応を認めるのみで,その他異常所見は認めなかった.疼痛部位から左側結腸憩室炎,虚血性腸炎,尿路結石,婦人科系附属器疾患などを鑑別に挙げ,急性腹症として腹部造影CT検査を施行した.その結果,下行結腸遠位部前面に脂肪組織濃度の上昇を認め,同領域内部にリング状に縁取られた脂肪濃度域を認めた.また,病変周囲に憩室炎を疑わせる所見や腹腔内遊離ガス像,尿路・附属器の異常を認めなかったため,画像的に急性腹膜垂炎と診断した.入院での安静,絶食,補液管理とし,疼痛に対しては鎮痛剤使用にて保存的加療を行った.経過中は一貫して発熱は認めず,腹痛は徐々に改善傾向であった.鈍痛が持続する状態であったが,第3病日に強い退院希望があったため,外来での経過観察とし退院とした.発症7日目の外来受診時には腹痛は消失しており,血液検査上もCRP 0.7mg/dlと増悪を認めなかったため当科終診とした.腹膜垂とは大腸結腸ヒモに沿って存在する臓側腹膜に覆われた葉状の脂肪組織で, 腹膜垂炎とはその炎症であり,急性腹症として発症する比較的まれな疾患である.保存的治療で経過観察可能な疾患であるが,発症部位によっては臨床的に急性虫垂炎,憩室炎などとの鑑別が必ずしも容易でなく,原因不明の急性腹症として開腹症例も存在するため,正確かつ早期の診断を行なうことが重要である.今回,突然の左下腹部痛を主訴に来院した下行結腸腹膜垂炎の1 例を経験したため若干の文献的考察を含めて報告する.
索引用語 腹膜垂炎, 急性腹症