セッション情報 一般演題

タイトル 82:

トリクロロエチレンの関与が疑われた腸管嚢胞性気腫症の1例

演者 須藤 拓馬(大森赤十字病院 消化器内科)
共同演者 河野 直哉(大森赤十字病院 消化器内科), 芦苅 圭一(大森赤十字病院 消化器内科), 関 志帆子(大森赤十字病院 消化器内科), 鶴田 晋佑(大森赤十字病院 消化器内科), 高橋 昭裕(大森赤十字病院 消化器内科), 千葉 秀幸(大森赤十字病院 消化器内科), 井田 智則(大森赤十字病院 消化器内科), 諸橋 大樹(大森赤十字病院 消化器内科), 後藤 亨(大森赤十字病院 消化器内科)
抄録 腸管嚢胞性気腫症は、腸管壁内に多数の気腫を生じる比較的稀な疾患である。原因は多岐にわたるが、慢性的なトリクロロエチレン暴露が原因とする報告も認める。今回我々はトリクロロエチレンの関与が疑われた腸管嚢胞性気腫症の1症例を経験したので報告する。
症例は36歳の男性。町工場で金属加工に携わっており、慢性的にトリクロロエチレンに暴露している環境で仕事に従事していた。平成25年6月半ばから下痢、腹痛が出現、7月に近医受診し、抗菌薬を1週間内服した。その数日後より少量の血液が混入した泡状の便を認めたため、当科紹介受診となった。身体所見上は左下腹部に軽度の圧痛・違和感を認め、同日の腹部造影CTでは左上腹部に腹腔内遊離ガス像、S状結腸に腸管壁内に多発したガス像を認め、腸管嚢胞性気腫症及びその破裂の疑いにて精査加療目的に緊急入院となった。入院時は腹部症状に乏しく、血液検査でも、WBC4600μl, CRP0.13mg/dlと炎症反応の上昇を認めず、絶食・補液・抗生剤(PIPC/TAZ)で保存的に加療を開始した。その後、少量の血便は認めたが、症状の増悪なく第6病日の単純CTでは、腹腔内遊離ガスは消失していた。第7病日に注腸造影を施行し、S状結腸の腸管壁に沿って微小な嚢胞状ガス像が連珠状に見られ、腸管嚢胞性気腫症に矛盾しない所見であった。翌日のCTで造影剤が腹腔内に流出していないことを確認した。第9病日に診断目的で大腸内視鏡を施行したが、S状結腸の非特異的な粘膜の炎症所見のみで、腸管壁内の気腫を疑う粘膜下隆起病変は認めず、炎症性粘膜の生検や培養でも特記すべき所見は認めなかった。その後症状も改善し第10病日より食事を開始し、症状再燃せず第13病日に退院となった。
本例は、内視鏡の所見は乏しかったが、CT・注腸所見より腸管嚢胞性気腫症と診断し、原因としてトリクロロエチレンの関与が疑われた症例であった。トリクロロエチレンによる腸管嚢胞性気腫症は、医中誌で検索した限り21例と比較的稀であり、今回報告した。
索引用語 腸管嚢胞性気腫症, トリクロロエチレン