セッション情報 一般演題

タイトル 02:

ワルファリンにより小腸粘膜内出血を来した1例

演者 横田 雄大(山梨大学 医学部 第一内科)
共同演者 植竹 智義(山梨大学 医学部 第一内科), 中岫 奈津子(山梨大学 医学部 第一内科), 田中 佳祐(山梨大学 医学部 第一内科), 小馬瀬 一樹(山梨大学 医学部 第一内科), 末木 良太(山梨大学 医学部 第一内科), 大高 雅彦(山梨大学 医学部 第一内科), 榎本 信幸(山梨大学 医学部 第一内科)
抄録 抗凝固療法の合併症として重篤なものに消化管出血がある。出血部位は脳、消化管、呼吸器、皮膚に多いとされている。今回ワルファリン内服中に小腸粘膜内出血を来した症例を経験したため報告する。症例は69歳男性。2009年11月より糖尿病、慢性心房細動に対して、ワルファリンなどを内服、外来通院中であった。2012年11月15日に3日前からの嘔吐と血便が出現したため救急受診した。血液生化学検査上CRP 16.44mg/dl、WBC 15160/μlと炎症反応の上昇、凝固検査上PT-INR 12.28と著明な延長を認めた。造影CT検査では空腸浮腫、少量の血性を疑う腹水貯留を認め、腸捻転、上腸間膜血栓症を疑ったが、腸間膜動脈血栓や腸管壊死所見はなく、PT延長を伴う消化管出血と診断。入院後ビタミンK静注、輸血、絶食補液、抗生剤による保存的加療を行い、その後は腸管壊死や穿孔の発症はなく軽快した。上部消化管内視鏡検査、経口ダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)を施行した。上部消化管内視鏡検査ではびらん性胃炎を認めるのみであったが、DBEではCTで指摘された病変部と一致した空腸に20cmの間に多発する紫斑を認めた。同部位からの組織学的検査では活動性炎症と粘膜内出血が認められた。鑑別として細菌性腸炎、血管炎症候群、好酸球性腸炎、炎症性腸疾患、NSAIDs起因性小腸炎を挙げたがいずれも病歴や経過、培養検査、血液生化学検査、病理組織学的検査より否定的であり、ワルファリンによる過剰な抗凝固状態のための小腸粘膜内出血と診断した。抗凝固療法中の小腸壁内出血はBettlerらの報告での頻度は1/2500と稀な合併症である。抗凝固療法による腸管壁内血腫は医中誌で検索し得た範囲では17例の報告があり、部位は小腸13例、結腸3例、十二指腸 1例であった。抗凝固療法中の脳梗塞や心疾患を伴う急性腹症の患者の診断においては、保存的治療で改善しうる小腸粘膜内出血の可能性も念頭に置いて診療することで危険性を伴う手術を回避することができると考えられた。
索引用語 小腸壁内出血, 抗凝固治療