抄録 |
症例は70歳女性.喘息と原因不明の正球性正色素性貧血で近医に通院していた.糖尿病の既往はなく,ステロイドは吸入のみで内服歴はない.2013年7月に3日間続く39℃台の発熱と悪寒戦慄,全身倦怠感を主訴に当科を受診した.受診時の身体所見は体温39.2 ℃,血圧96/71 mmHg,脈拍150 /分,胸部に異常所見は認めず,腹部では上腹部に圧痛を認めた.血液検査ではWBC 10700 /μl,CRP 22.56 mg/dlと炎症所見,および鉄欠乏性貧血を認めた.腹部CT検査では,肝臓に境界明瞭な分葉状の腫瘤を複数認め,内部は造影されないが造影早期相で周囲が造影されることから肝膿瘍が疑われた.敗血症および肝膿瘍の診断で入院した.エコーガイド下に経皮的膿瘍穿刺を行ったところ,白色調の濃性液を吸引した.入院時の血液培養検査と膿瘍穿刺液の培養にてともにKlebsiella pneumoniaeが同定された.膿瘍穿刺液の細胞診はClass Iであった.抗生剤(MEPM,感受性確認後はCEZ)の投与により肝の多発腫瘤は縮小した.炎症所見が落ち着いた後に肝膿瘍の原因精査を行ったところ,下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に全周性の2型腫瘍を認め,生検で高分化から中分化の管状腺癌と診断した.全身検索でおこなった胸腹部CT検査にてほかに明らかな転移の所見は認めなかった.当院外科へ紹介し,9月に右半結腸切除術を施行した.病理結果はtub1+tub2, ss, ly1, v2, N1, stageIIであった.現在外科外来にて化学療法を継続中である.本例は胆石,胆嚢炎,胆管炎などの経胆道感染を示唆する所見はなかった.また,全身検索で敗血症の原因となりうる感染所見は認めなかったことから,大腸癌からの経門脈的感染が推測された.肝膿瘍の診断,治療においては,原因疾患として大腸癌の可能性を念頭においた下部消化管精査が必要であると考えられた. |