セッション情報 一般演題

タイトル o-018:

肝転移病変内の出血により嚢胞性変化を呈しさらに腹腔内穿破を来した膵癌の一剖検例

演者 稲邑 克久(市立砺波総合病院消化器科)
共同演者 大村 仁志(市立砺波総合病院消化器科), 高田 佳子(市立砺波総合病院消化器科), 岡村 利之(市立砺波総合病院消化器科), 河合 博志(市立砺波総合病院消化器科), 杉口 俊(市立砺波総合病院臨床病理科), 寺畑 信太郎(市立砺波総合病院臨床病理科)
抄録 【症例】72歳女性【主訴】腹痛【既往歴】50歳子宮筋腫手術【現病歴】平成22年6月上腹部痛が出現、近医を受診し加療を受けたが改善せず3日後朝から上腹部痛が増悪したため当院へ救急搬送された。腹部CTにて肝右葉に辺縁を圧排する約12cm大の嚢胞性病変を認め精査加療目的に入院となった。来院後腹痛は軽快したため、緊急嚢胞ドレナージは施行しなかった。翌々日の腹部MRIにて肝嚢胞性病変の破裂と腹水増多を認め、腹腔穿刺は血性であった。出血性嚢胞性病変の破綻および被膜損傷による静脈性の腹腔内出血と判断された。肝嚢胞性病変の原因としては採血上CEA 22.7 ng/ml , CA19-9 517.9 U/mlと腫瘍マーカーが上昇しており、画像上膵尾部に腫瘤を認めることから膵癌の肝転移が最も疑わしいと考えられた。外科的処置は適応外とされ、肝動脈塞栓術(以下TAE)も動脈性出血でなければ効果がないと判断され輸血などの保存的治療を継続した。しかし貧血の進行が持続したため、約3週間後に血管造影を施行した。動脈出血を疑う所見ありTAEを施行したがその後も貧血の進行を認め無効であった。約5週間後の腹部CTにて別部位の肝嚢胞性病変の多発増大および腹腔内穿破を疑う所見を認め、さらに腹部MRIで腹膜播種の所見も出現した。その後約9週間後に腹腔内出血により永眠された。剖検では主病変は膵体尾部癌(中分化管状腺癌)で、肺、心、胃、肝、脾、胆嚢、小腸、腹膜、膀胱、虫垂、横隔膜、左卵巣、腹腔内リンパ節に転移および浸潤を来していた。腹腔内には6200mlの血液が貯留していた。膵癌主病変には嚢胞状変化は認めないが、腹膜大網肝転移病変においては出血に伴う嚢胞状変化が認められた。剖検の結果から膵癌を原発として肝転移病変に出血による嚢胞状変化が加わり腹腔内に穿破したことが確かめられた。本例のような病態を示した膵癌の報告は過去に検索した範囲では抽出されず、「腹腔内出血」「肝転移」で検索したところ肝転移病巣から腹腔内出血を来した症例は、胃癌、肺癌、絨毛癌、GISTなどにおいて少数例認めるのみであった。
索引用語 嚢胞状肝転移, 腹腔内穿破