抄録 |
症例は71歳男性.201X年7月頃より食欲低下を自覚し,さらに,体動時の眼前暗黒感を自覚し,8月頃に紹介医を受診した.その際に,高度の貧血を指摘され,CTにて胃癌を疑われたため当院に紹介となった.腹部造影CTにて胃壁肥厚および周囲のリンパ節腫大,傍大動脈リンパ節腫大,左副腎腫瘍および,左副腎静脈,腎静脈から連続して下大静脈に腫瘍栓を認めた.上部消化管内視鏡では胃前庭部から体下部大弯の2型腫瘍および,体中部から噴門,食道下端の小弯から後壁にかけての3型腫瘍,それと衝突するように体上部後壁に1型腫瘍を認めた.病理検査ではそれぞれの腫瘍においてadenocarcinoma(tub1,pap)を認めた.経皮的副腎腫瘍生検にて転移性癌の結果であり,胃癌の副腎転移,下大静脈腫瘍栓と診断した.HER2 test score 1+でありTS1とシスプラチンの化学療法にて治療を開始した.副腎は悪性腫瘍の血行性転移の好発部位であり,胃癌の副腎転移も珍しくはないが,下大静脈腫瘍栓まで来しているものは稀と考えられる.腎細胞癌などの腎腫瘍や副腎腫瘍,肝細胞癌などでの下大静脈腫瘍栓の報告は多い.治療法としては切除可能例では摘出術の報告が多いが,体外循環が必要な場合もあり侵襲は大きく,突然死の危険もある.切除不能例では化学療法や下大静脈フィルターなどの報告もあるが,進行例ではフィルターを巻き込んで進展することもある.本症例では物理的にフィルターを留置するスペースなく適応外であり,化学療法のみで経過をみる方針である. |