セッション情報 一般演題

タイトル O-037:

腹膜偽粘液種に腹水濾過濃縮再静注を施行した1例

演者 石原 知明(四日市消化器病センター 消化器・肝臓内科)
共同演者 田中 秀明(三重大学 消化器内科学), 垣内 雅彦(みえ消化器内科), 竹井 謙之(三重大学 消化器内科学)
抄録 【症例】78歳の男性【既往歴】特記事項なし【家族歴】特記事項なし【現病歴】2009年1月虫垂癌のため右半結腸切除術を施行。その後mFOLFOXを施行するも同年9月腹膜転移、再発を認めた。2011年2月より腹水の増加を認め、利尿剤投与を行なうも次第に反応が鈍くなった。2012年10月、腹部膨満、食欲低下にて来院。腹部CTでは、肝、腸管を圧排し腹腔内を占拠する腫瘤を認めた。腹水の試験穿刺を行なったところ、黄色で一部血液を混じるゼリー状の腹水を認めた。腹膜偽粘液種と診断し、外科的治療を考慮したが、78歳と高齢で低侵襲な治療を希望されたため腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)による症状の改善を試みた。1回の穿刺で500~2000mlの腹水を排液採取した。粘性の高い腹水のため、落差式での濾過濃縮は困難で、血液透析用の回路を利用したポンプ式による濾過濃縮を行なった。CART後の発熱はなく、腹部症状の改善、食欲の急速な回復を認め、1泊2日で退院可能であった。食欲低下などの症状が悪化するたびに来院し、約1ヶ月毎に現在まで5回のCARTを繰り返しているが、大きな問題なく継続している。【考察】腹膜偽粘液腫は腹腔内に広範囲にゼラチン様物質が貯留する疾患で、悪性度の低い癌性腹膜炎の一つと考えられている。発症頻度は100万人に1例程度との報告があり、まれな疾患である。原発巣は虫垂や卵巣の場合が多く、原発巣不明のまま経過する症例もある。全身化学療法がほとんど無効で、治療は偽粘液腫に侵されている腹膜を外科的に完全に切除したり、切除後腹腔内温熱化学療法を追加するのが現在もっとも有効な治療法と考えられている。手術困難な場合は腹水穿刺を繰り返し、ベストサポーティブケアが中心となる。CARTは低侵襲で、施行直後から苦痛を軽減する治療法で癌性腹膜炎にも良好なADLが得られたとの報告が散見されるようになっている。本例のような粘性の高い腹水にCARTを行なった症例は少なく、ポンプ式による濾過濃縮を行なう事で継続的な治療が可能であったため報告した。
索引用語 腹膜偽粘液種, 腹水濾過濃縮再静注法