抄録 |
【背景】MUC遺伝子の発見を契機とした形質発現研究の進歩に伴い、組織型に関係なく胃型形質を発現する胃癌の存在が明らかとなった。近年、胃型胃癌は腸型胃癌よりも5-FU系薬剤を用いた化学療法により有意に予後が改善される事が報告された。【症例】症例は既往歴のない69歳女性。筋生検と特徴的な皮膚病変より皮膚筋炎と診断され外来精査中に吐血を主訴に来院。緊急EGDを行ったところ体部小弯の潰瘍性病変からの出血を来たしており、止血処置を行い入院となった。止血後に行ったEGDでは襞先端の癒合を伴う深い潰瘍性病変を認めた。辺縁より行った胃生検組織像は低分化型腺癌で、3型進行胃癌と診断した。腹部造影CT検査では胃体部の浮腫状壁肥厚と体部小弯を中心とした造影効果を伴う腫大したBulkyリンパ節を認めた。 遠隔転移は認めなかったが、リンパ節転移が腹腔動脈根部に及んでいたため根治切除困難と判断し、cStage3Bの3型進行胃癌に対して十分なICを得た上で術前化学療法としてTS-1(80mg/m2,day1-21)+CDDP(60mg/m2,day8)療法を導入し、2コース終了後に効果判定をおこなった。EGDでは原発巣は著明に縮小し、全周性に再生上皮が出現していた。潰瘍辺縁および潰瘍底から生検を行ったが、いずれの生検組織からも癌は検出されなかった。腹部造影CTでは胃体部の浮腫状壁肥厚が改善していた。体部小弯の腫大リンパ節も縮小し、造影効果も低下していた。部分奏功により根治切除が可能になったと判断し、胃全摘術(D2郭清)を施行した。病理組織像はT1b(2×1.5mm),por,int,INFb,ly1,v0,N1,PM0,DM0,ypStage2、組織学的奏効度はGrade2であった。4種類の細胞分化マーカー(MUC5AC, MUC6, MUC2, CD10)を用いて形質発現の判定を行ったところ、術前に行った生検組織像は胃型形質を示したが、術後切除標本の残存腫瘍胞巣は無形質型を示した。胃型形質を示す胃癌が化学療法により消滅し、胃型形質を示さない癌が残存した可能性が示唆された。【結語】TS-1が奏功したと考えられる胃型進行胃癌の一例を経験したので、胃癌形質発現と抗癌剤感受性に関する文献的考察を加えて報告する。 |