抄録 |
【症例】44歳、女性【主訴】頭痛,息切れ【既往歴】24歳に発症し3回入院【家族歴】なし【体質】冷え性,冬に皮膚乾燥【現病歴】H20年7/19 鉄剤注射目的にて紹介(Hb7.9g/dL)【現症】身長156cm,体重44kg(元39kg)。血圧100/68 脈診:緊,細。結膜:貧血あり。舌:淡紅,歯圧痕著明,舌下静脈怒張軽度。腹部:お血(微小循環障害)圧痛あり。下肢:軽度浮腫【経過】鉄剤静注を10回施行、気血両虚に十全大補湯を処方。9/01 体質改善目的で当帰芍薬散に変更。10/16 Hb 10.4 g/dL。H21年2/23 朝方の腹痛消失。3/23 プレドニゾロン10mg/日に減量。9/12 1年前漢方を始めてから体調が良いと。9/7 S病院にてCA19-9 193 U/mLと高値。婦人科精査(卵巣腫大), MRI, PET-CT,大腸内視鏡検査よりS状結腸癌,大動脈周囲リンパ節転移と診断された(Group V,小円形髄様癌細胞)。H22年1/18よりmFOLFOX6+ベバシズバムを3クール施行。副作用を受容できず「止めたら進行しますよ。余命半年」と宣告され、2/23に当院を受診。気血双補の十全大補湯 5g/日と微小循環改善の当帰芍薬散 2.5g/日による宿主癌免疫の強化支援に努めた。また患者自らニンジンジュース療法(3本/日)を続けた。「死ぬまで続く化学療法の値段に比べたら安い!」と微笑む表情に癌とは思えない安堵感が発露して印象的であった。H24年3月 左内頚静脈血栓症を合併し抗凝固療法を追加(CA19-9 20 U/mL)。11/2 突然の乏尿でS病院泌尿器科へ紹介。癌浸潤による尿管閉塞,両側水腎症に対して左腎瘻造設となる。終末期の準備を勧めるとS病院社会福祉士に相談し「最期は海の見える所か、それとも山の見える所がいいか」と聞かれて失望する。患者は両親の通いやすい地理的条件を第一に考えていた。12/12 腹部膨満と血便が出現。12/18 直腸内指診で狭窄を確認後S病院へ紹介し入院。腸管減圧用チューブを一時挿入し緩和ケアと腹水の穿刺排液を繰り返してH25年2/7 死亡された【考察】20年間の長期多彩な経過から、全人的な対応を積み重ねる地道な過程を通して医療を展開する基軸が重要と改めて痛感した。 |