抄録 |
【緒言】乳糜腹水(chylous ascites)は中性脂肪を豊富に含んだリンパ液由来の腹水で,診断に際し最近では腹水中の中性脂肪濃度が200mg/dl以上であれば乳糜腹水とされていることが多い.悪性リンパ腫は乳糜腹水の原因疾患の一つとして知られているが,乳糜腹水を合併した悪性リンパ腫の報告例のほとんどがリンパ節性であり,節外性リンパ腫の報告例は極めて少ない.今回われわれは乳糜腹水を合併した限局期の胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.【症例】87歳男性.食欲不振・腹部膨満を主訴に受診.上部消化管内視鏡検査では胃全体にびらんと易出血性の不整な隆起性病変を認めた.生検組織検査と画像検査より胃原発非ホジキンリンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ;DLBCL) , Lugano国際病期分類StageIと診断とした.また腹水貯留を認め,精査したところ,乳白色で中性脂肪濃度が506mg/dl と高く培養および細胞診陰性であり乳糜腹水と診断した.画像検査では肝硬変に特徴的な所見に乏しかったがHCV抗体陽性,ICG停滞率の上昇(24%),血清ヒアルロン酸値の著明な上昇(1320ng/ml)は慢性C型肝硬変の合併を示唆していた.R-CHOP療法にて完全寛解となり,乳糜腹水はほぼ消失した.【考察】乳糜腹水の発生機序はリンパ管を流れるリンパ流の閉塞やリンパ管の破壊による腹腔内へのリンパ液の漏出といわれている.肝硬変などで門脈圧が亢進すると腹腔内臓器,腸間膜などのリンパ管のうっ滞や破壊が起こるため,門脈圧亢進は乳糜腹水の原因の一つとされる.また消化器癌でも腸リンパ管が拡張し血管透過性が亢進といわれており,消化器癌も乳糜腹水の原因となりうる.本例の乳糜腹水の原因としては肝硬変による門脈圧亢進の関与も考慮する必要はあるものの,R-CHOP療法後に当初みられた乳糜腹水が著明に改善していることから,胃悪性リンパ腫が乳糜腹水の主たる原因になっているものと考えられた. |