セッション情報 シンポジウム1「消化器診療におけるイノベーション」

タイトル S1-8:

肝細胞癌に対する化学療法効果予測の可能性

演者 浪崎 正(奈良県立医科大学 消化器・内分泌・代謝内科)
共同演者 吉治 仁志(奈良県立医科大学 消化器・内分泌・代謝内科), 福井 博(奈良県立医科大学 消化器・内分泌・代謝内科)
抄録 【目的】進行肝癌における化学療法には通常の抗癌剤治療に対する低反応性、Sorafenibを用いた分子標的治療における有害事象の多さなど多くの問題点がある。薬剤耐性遺伝子の解析による化学療法効果予測が事前に判定可能であれば、有害事象の軽減と共に、適切な薬剤の選択による奏効率向上につながると考えられる。Sorafenibの細胞外排泄トランスポーター (TP)も近年明らかにされており、TPを治療効果予測の指標として利用することは肝癌化学療法のイノベーションと考えられる。そこで今回、肝細胞癌におけるTP発現に影響を与える因子について解析し、TP発現に基づく肝癌化学療法効果予測の可能性について検討した。【方法】薬物排泄に関わるATP結合カセット(ABC)TP群、MDR1(multidrug resistance protein1)、MRP2(multidrug resistance-associated protein2)およびBCRP(breast cancer resistance protein)、また薬物取り込みに関わるSolute Carrier(SLC)TP群、OCT1(organic cation transporter1)およびOCT3(organic cation transporter3)の蛋白発現を免疫組織化学染色的手法にて半定量的に評価し、外科的切除を受けたHCC患者(n=24) の腫瘍組織(HCC) および非腫瘍組織 (NT) の両組織間で比較検討した。さらにTP発現と臨床病理学的因子の関係を解析した。【成績】MDR1, MRP2, BCRPはいずれも、HCC、NTに関わらず、肝細胞の管腔側膜に発現していた。BCRPはNTに比べHCCで有意に発現上昇が認められた(p<0.05)。MRP2はHCCで発現上昇傾向が認められるものの、有意差は認められず、MDR1はHCCではNTに比べて、僅かに発現は抑制されていた。一方、OCT1およびOCT3は共に、両組織において、肝細胞の類洞側膜に発現が認められ、HCCではNTに比べて著明に発現低下が認められた(共にP<0.001)。OCT1発現は腫瘍分化度と逆相関が認められ(P=0.0001)、また腫瘍進行に伴い上昇する傾向が認められた。【結論】BCRPの高発現および、OCT1、OCT3の低発現がHCCにおける抗癌剤耐性の規定因子であると考えられた。TPが肝癌化学療法における治療効果予測の新規バイオマーカーになり得る可能性が示唆された。
索引用語 トランスポーター, 治療効果