セッション情報 シンポジウム2「肝細胞癌に対する治療戦略」

タイトル S2-9:

進行肝細胞癌に対する治療戦略:まずIVRか分子標的治療か

演者 守屋 圭(奈良県立医科大学 第三内科)
共同演者 堂原 彰敏(奈良県立医科大学 第三内科), 吉治 仁志(奈良県立医科大学 第三内科), 福井 博(奈良県立医科大学 第三内科)
抄録 【目的】本邦では進行肝細胞癌(aHCC)に対して,肝動脈塞栓術や肝動注化学療法(HAIC)などのIVR治療が発達してきたが,これまで生存期間の延長を明示した大規模研究はなく,これを明示した分子標的治療剤ソラフェニブ(Sor)との使い分けが課題である.そこで当科の直近の治療成績を分析して,これらの治療適応について考察する.【対象と方法】対象は2011年に当科で診断した肝細胞癌患者111例(M78/F33,年齢中央値72歳)で,原則的にJSHコンセンサスに基づく治療アルゴリズム2010に沿って加療した.このうちHAICとSorによる各々の治療成績と合併症に関して後方視的に比較解析を行った.【成績】当科のアルゴリズム順守率は69%で,19例(M14/F5,同69歳)にHAICを施行し,12例(M7/F5,同69歳)にSorを投与した.HAICに先行するSor投与は19例中1例(5%)である一方,Sor投与前のHAIC施行は12例中7例(58%)とHAIC先行例が大半を占めていた.HAIC例の無増悪期間(TTP)/平均生存期間(MST)の中央値(日)は各々298/466で,Sor例の95/255に比していずれも有意に長かった.次にHCC Stage別(Stage4対Stage3以下)あるいは肝予備能別(Child B/C対Child A)でこれらを比較すると,HAIC例のTTP/MSTはいずれの場合も群間に差異はなかったが,Sor例のStage4におけるTTP/MSTは65/202で,Stage3以下の165/300よりも短縮傾向にあった.脈管浸潤(Vp)の有無で比較すると,HAIC例のTTP/MSTはVpに左右されないが,Sor例ではVp(+)のTTP/MSTは60/160で,Vp(-)の210/300よりも短縮傾向にあった.遠隔転移M1を伴うSor例のTTP/MSTは57/185で,M0の165/300と比較して約半分であった.各治療法の中止理由はHAICでは腫瘍増大(PD)が75%と最多で,肝動脈閉塞(16%)が続き,SorではPD(40%),全身状態悪化(30%),顆粒球減少,肝障害,出血性腸炎(各10%)の順であった.【結論】aHCCの治療において,HAICは進行例,予備能不良例,Vp(+)症例でも十分な奏効が見込まれるが,SorはVp(-)症例での効果が期待される. HAICは予備能を損ねにくいため,Sor投与が不能になる可能性を過剰に意識せず,積極的に実施すべきである.
索引用語 肝動注療法, 分子標的治療薬