セッション情報 シンポジウム1 「ウイルス性肝炎治療の最前線」

タイトル S1-01:

B型慢性肝疾患に対するエンテカビル治療の有用性

演者 山田 涼子(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
共同演者 平松 直樹(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学), 竹原 徹郎(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
抄録 【背景】B型慢性肝疾患に対するエンテカビル(ETV)治療は、ラミブジンに比し強力なウイルス増殖抑制作用をもち薬剤耐性変異率が低いことが報告されている。今回、B型慢性肝疾患に対するETVの抗ウイルス効果ならびに発癌抑制効果について検討した。【方法】対象は大阪大学ならびに関連施設において2004年7月から2012年9月までにETV治療を開始したB型慢性肝疾患のうち、他の肝疾患合併例、治療期間が6カ月未満の症例、核酸アナログ治療歴のある症例を除外した597例とした。平均観察期間は32.2±17.8ヵ月であった。【成績】ETV治療開始時の患者背景は、平均年齢54.0±12.0歳、男性/女性375/222例、HBe抗原陽性/陰性253/307例、慢性肝炎/肝硬変403/77例、HBV DNA量(中央値)6.7 log copies/mL(LC/mL)であった。ETV治療開始6ヶ月後にHBV DNA陰性化(<2.6 LC/mL)(以下IVR)が得られたのは71%で、IVRはHBe抗原陽性例に比しHBe抗原陰性例で有意に高率であった(47% v.s. 91%、p<0.001)。また、HBV DNA陰性化に関与する因子は、治療開始時のHBV DNA量であった。一方、ETV治療開始時に発癌歴のない480例における発癌抑制効果についての検討では、治療開始後33例に発癌を認め、5年累積発癌率は、慢性肝炎例10.8%、肝硬変例31.3%と、肝硬変例で有意に高い発癌率であった(p<0.001)。発癌に関与する因子についての多変量解析では、肝硬変例においてはIVR例で有意に発癌が抑制されていたが(HR0.260、p=0.027)、慢性肝炎例においてはIVRによる発癌率の差を認めず、3年累積発癌率はIVR例6.3%、non-IVR例5.5%であった(p=0.337)。また、ETV開始後5年以上が経過し、IVR後にHBV DNA陰性が持続している34例のうち、2例に発癌(ETV開始後5年ならびに6年)を認めた。【結論】B型慢性肝疾患に対するETV治療により高いHBV DNA増殖抑制効果が示され、肝硬変例においては早期にHBV DNAが陰性化した症例において発癌抑制効果が得られた。一方、慢性肝炎例においてはHBV DNA陰性化による発癌抑制効果は現時点では有意ではなく、ETV治療では十分に発癌抑止されない可能性が示唆された。
索引用語 B型慢性肝炎, エンテカビル