抄録 |
【症例】85歳, 女性【主訴】右胸痛, 発熱【現病歴】平成24年4月7日より右胸痛と高熱が出現し, 4月12日当院初診. 初診時のCTで, 肝内に8.5cm大の腫瘤を認めた.造影CTでは, 腫瘤は早期から後期まで不均一に造影される多血性腫瘍を呈し,その後急速な増大を認めた.肝細胞癌としては非典型的であり, chronic expanding hematomaや易出血性の間葉系腫瘍の可能性を考えた. 腫瘍生検などの診断治療を勧めたが同意は得られず,症状増悪のため5月7日入院となった. 【入院後経過】抗生剤治療で炎症所見は一時的に改善したが, 腫瘍による疼痛,圧迫症状に対して緩和治療を必要とした. 6月末死の転帰をとられ, ご家族の承諾を得て病理解剖を行った. 外観からは右横隔膜下に肝臓原発とも考えられる最大径14cmの巨大腫瘍を確認した. 腫瘍は横隔膜と癒着する充実性腫瘍で脂肪成分を多く含み, 変性壊死による嚢胞状変化が散在した. また,腫瘍と接し横隔膜下には三日月様の脂肪組織を認めた. 病理組織学的に巨大腫瘍は脱分化型脂肪肉腫と診断された. 発症の1年前に撮影したCTが存在し,Retrospectiveにこの画像を検討すると, 肝内に腫瘍は存在しないものの右横隔膜下腹側に小さな脂肪腫様領域が認められた.時系列の画像から,この脂肪腫様領域から連続して脱分化型脂肪肉腫が肝内に急速増大したと考えられた.また,脂肪腫様領域の病理学的診断は高分化型脂肪肉腫で,肝内の脱分化部位と横隔膜下の高分化部位の間には隔壁が存在し,双方でS-100染色陽性の脂肪芽細胞を認めた.【考察】脱分化型脂肪肉腫は「高分化型脂肪肉腫から発生した, 脂肪を形成しない高悪性度肉腫」と定義されるが,脱分化の組織像は多彩で, 元来「脂肪を形成しない肉腫」とされた脱分化の定義には変更を促している. 本症例は後腹膜発生ではなく、右横隔膜下に局在した高分化型脂肪肉腫を母地に脱分化を起こした極めて稀な症例と思われた.【結語】生前の画像診断が困難であった右横隔膜下巨大多血性腫瘍の1例を経験した.最終病理診断は脱分化型脂肪肉腫で,文献的考察を加えて発表する。 |