共同演者 |
石川 茂直(香川県立中央病院 消化器内科), 水川 翔(香川県立中央病院 消化器内科), 榊原 一郎(香川県立中央病院 消化器内科), 泉川 孝一(香川県立中央病院 消化器内科), 三好 正嗣(香川県立中央病院 消化器内科), 和唐 正樹(香川県立中央病院 消化器内科), 稲葉 知己(香川県立中央病院 消化器内科), 河合 公三(香川県立中央病院 消化器内科) |
抄録 |
症例は57歳,男性.2012年9月,数ヶ月前より持続する下痢を主訴に受診.下部消化管内視鏡検査にて,肛門縁より約3cmの直腸後壁に,立ち上がりなだらかな3cm程度の粘膜下腫瘍を認めた.病変は直腸の約1/3周に存在し,結節状隆起を呈していた.腫瘍の表面は大部分が健常粘膜と同様であったが,頂部に発赤,びらんを伴っていた.直腸指診では比較的柔らかい腫瘤として触知した.頂部を含めボーリング生検を施行したが,軽度の慢性炎症で,腫瘍性変化は認めなかった.造影CT検査では,病変は30mm大の造影効果の少ない多房性の嚢胞性腫瘤として描出された.MRI検査では,嚢胞はT1WIで低信号,T2WIで高信号で造影効果はみられなかった.超音波内視鏡検査では,腫瘍は第3層を主座とする複数の嚢胞性病変として描出され,嚢胞壁は不整であった.嚢胞内部には一部高エコーの貯留物を認めた.確定診断目的に,超音波内視鏡下穿刺生検法(EUS-FNA)を行ったが,粘液および炎症細胞とともに,一部に異型を伴う腺管を認めたが,確定診断は得られなかった.Colitis Cystica Profunda(以下,CCP)を第一に疑ったが,直腸粘膜下腫瘍の粘液変性や粘液産生を伴う悪性腫瘍などが鑑別に挙げられ,2年前の内視鏡検査で同病変の指摘なく,悪性腫瘍の合併も否定できず,確定診断と治療目的に経肛門的切除術を施行した.切除標本の病理組織検査では,腫瘤は大きさ10mm前後の複数の嚢胞を主体とした病変であり,嚢胞内面は一層の円柱上皮で覆われていた.嚢胞内部は血液を混じた粘液貯留を認めた.粘膜固有層にFibromusclar oblitationを伴っており,直腸粘膜脱症候群に伴い発生したCCPと診断した.悪性腫瘍の合併は認めなかった.CCPは,直腸粘膜下に粘液嚢胞を形成し隆起性変化を来たす良性疾患で,直腸粘膜脱症候群の肉眼形態の一つとしても亜分類されているが,その頻度は稀である.また本症例のごとく,生検による確定診断は困難であり,粘膜下腫瘍や粘液産生を伴う悪性腫瘍などとして根治手術が行われることも多い.今回われわれは局所切除を行い,CCPと診断した1例を経験した.直腸の粘膜下腫瘍の鑑別には本疾患を念頭に置く必要がある.若干の文献的考察を加え報告する. |